こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
臨床をしていると、
「血糖値が高い」
「糖尿病と言われている」
「食後に強い眠気が出る」
「血糖値の変動が気になる」
という患者さんに出会うことがあります。
こうしたとき、
血糖値=膵臓=インスリン
というイメージを持っていないでしょうか?
もちろん、膵臓から分泌されるインスリンは血糖調節において非常に重要です。
しかし、血糖値は膵臓だけでコントロールされているわけではありません。
例えば、
肝臓
骨格筋
脂肪組織
腸管
自律神経
副腎・HPA軸
睡眠
身体活動
など、さまざまな要素が関係します。
だからこそセラピストも、
「膵臓を緩めれば血糖値が下がる」
と考えるのではなく、
身体がどのように血糖を調節しているのか?
という生理学から理解することが重要です。
今回は、血糖コントロールをセラピストの視点から考えていきます。
【①そもそも血糖値はどうやって調節される?】
まず基本から整理しましょう。
食事から糖質を摂取すると、消化・吸収されたブドウ糖が血液中へ入ります。
すると血糖値が上昇します。
そこで重要になるのが、
インスリン
です。
インスリンは膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されます。
食後などに血糖値が上昇するとインスリン分泌が促され、
骨格筋などへの糖取り込みを促進する
肝臓でのグリコーゲン合成を促す
肝臓からの糖放出を抑える
などの働きを通じて、血糖値を調節します。
反対に、空腹時など血糖値が低下する状況では、
グルカゴン
などのホルモンが関与し、肝臓からの糖供給を促します。
つまり血糖調節は、
膵臓 → ホルモン → 肝臓・筋肉など
という全身的なシステムです。
【②膵臓だけを見ても血糖値は理解できない】
では、膵臓から見ていきましょう。
膵臓には、
外分泌機能
と
内分泌機能
があります。
血糖調節に重要なのは内分泌機能です。
代表的なのが、
β細胞 → インスリン
α細胞 → グルカゴン
です。
ここでセラピストが注意したいのが、
「膵臓へ徒手的にアプローチすればインスリン分泌が増える」
と考えないことです。
現時点で、膵臓周囲への徒手療法によって糖尿病を治療したり、臨床的に意味のある血糖低下を起こしたりできるとする確立した根拠はありません。
膵臓を学ぶ目的は、
血糖調節というシステムの中心的な臓器を理解すること。
そして、そこから他の臓器や組織へ視野を広げることです。
【③血糖値を見るなら“肝臓”を見る】
血糖調節で膵臓と同じくらい重要なのが、
肝臓
です。
肝臓は血糖値を安定させるための、
「糖の貯蔵庫+供給装置」
のような役割を担っています。
食後に血糖値が上昇すると、ブドウ糖の一部を
グリコーゲン
として蓄えます。
一方、空腹時には、
グリコーゲン分解
によってブドウ糖を供給します。
さらに、
乳酸。
グリセロール。
アミノ酸。
などから新しくブドウ糖を作る、
糖新生
も行います。
つまり肝臓は、
食後は糖を蓄える
↓
空腹時は糖を供給する
という血糖のバッファーのような役割を果たしています。
だから、
血糖値=膵臓
ではなく、
膵臓+肝臓
で考えることが重要です。
【④実は“骨格筋”が血糖コントロールの重要組織】
セラピストに特に知ってほしいのが、
骨格筋
です。
インスリンが作用すると、骨格筋では主に
GLUT4
という糖輸送体が細胞膜へ移動し、ブドウ糖の取り込みが促進されます。
そして骨格筋は身体の中でも大きな組織です。
そのため、食後のブドウ糖処理において非常に重要な役割を持っています。
さらに面白いのが、
筋収縮そのものによってもGLUT4の移行が促進される
ことです。
つまり運動による糖取り込みは、
インスリンだけに依存しているわけではありません。
ここはセラピストにとって非常に重要です。
血糖値について考えるなら、
「どこを施術するか?」だけではなく、患者さんがどれだけ身体を動かしているか?
を見る必要があります。
【⑤血糖値を見るなら“筋肉量”と“身体活動”を見る】
ここから臨床へつながってきます。
例えば、
一日中座っている。
ほとんど歩かない。
筋肉量が少ない。
食後すぐ座る・横になる。
こうした生活習慣がある患者さんでは、
施術だけでなく、
身体活動
にも目を向ける必要があります。
特に食後の軽い歩行などは、食後血糖の管理に役立つ可能性があります。
つまり、
血糖値が気になる患者さんに対して、
「膵臓をどう触る?」
だけを考えるより、
「この人は普段どれくらい筋肉を使っている?」
と考える方が、生理学的には非常に重要です。
セラピストだからこそ、
筋肉を「硬い・柔らかい」だけではなく、
代謝を担う組織
として見る。
この視点を持ってほしいと思います。
【⑥腸は“糖を吸収する場所”だけではない】
次に注目したいのが、
腸管
です。
食事によって糖質を摂取すると、消化された糖は主に小腸から吸収されます。
しかし腸は、単なる吸収装置ではありません。
食事が腸管へ入ると、
GLP-1
GIP
などの消化管ホルモンが分泌されます。
これらは、
インクレチン
と呼ばれます。
インクレチンは食後のインスリン分泌などに関与し、血糖調節に重要な役割を持っています。
つまり、
腸 → ホルモン → 膵臓 → 血糖調節
というつながりもあります。
「血糖値」という一つの数値の裏側では、
複数の臓器が情報をやり取りしているわけです。
【⑦ストレスでも血糖値は変化する】
そしてもう一つ重要なのが、
ストレス反応
です。
強いストレスがかかると、
交感神経系。
副腎髄質。
HPA軸。
などが関与します。
特にHPA軸では、
視床下部
↓
下垂体
↓
副腎皮質
↓
コルチゾール
という反応が起こります。
コルチゾールには、身体が必要なエネルギーを確保できるよう、
肝臓での糖新生などを促す作用
があります。
またアドレナリンなども、急性ストレス時の糖供給に関与します。
つまり身体にとって血糖値を上げることは、
必ずしも「悪い反応」ではありません。
危険やストレスに対応するため、
すぐに使えるエネルギーを血液中へ準備する
という生存戦略でもあります。
【⑧自律神経と血糖調節】
ここでセラピストが興味を持ちやすいのが、
自律神経
だと思います。
膵臓や肝臓などの内臓機能には、自律神経系も関与しています。
交感神経。
副交感神経。
そして内分泌系。
これらが相互作用しながら、代謝を調節しています。
ただし、
「迷走神経を整えれば血糖値が下がる」
「交感神経を抑えれば糖尿病が改善する」
と単純化することはできません。
血糖調節は、
神経系。
内分泌系。
肝臓。
筋肉。
脂肪組織。
腸。
食事。
運動。
睡眠。
などが関わる複雑なシステムだからです。
自律神経は、
そのシステムを構成する一つの要素
として捉えることが重要です。
【⑨睡眠不足も血糖コントロールに関係する】
血糖値について考えるなら、
睡眠
も外せません。
睡眠不足や睡眠リズムの乱れは、
インスリン感受性や食欲調節、ストレスホルモンなどに影響し、糖代謝に悪影響を与える可能性があります。
だから問診では、
「甘いものを食べていますか?」
だけではなく、
何時間寝ていますか?
夜中に何度も目が覚めませんか?
睡眠時間は一定ですか?
日中の活動量はどうですか?
なども重要です。
血糖値を、
食事だけの問題にしない。
これも大切なポイントです。
【⑩では「血糖値への施術アプローチ」とは何なのか?】
ここまで読むと、
「結局、どこを施術すればいいの?」
と思うかもしれません。
しかし、ここが今回最も伝えたいところです。
血糖値への施術アプローチとは、
「この臓器を触れば血糖値が下がる」というテクニックではありません。
血糖値が高い患者さんに対して、セラピストが考えるべきなのは、
身体活動を妨げているものはないか?
痛みによって運動量が落ちていないか?
呼吸やリラクゼーションを支援できないか?
睡眠を妨げる身体症状はないか?
運動療法を安全に取り入れられないか?
といった視点です。
例えば膝痛によって歩けず、身体活動量が大きく低下している人なら、
膝の機能改善をサポートすることで、
結果として身体活動を増やすこと
につながるかもしれません。
このように、
血糖値そのものを徒手療法で操作しようとするのではなく、糖代謝を支える生活・運動・身体機能をサポートする。
これがセラピストにできる重要な役割だと思います。
【内臓アプローチはどう考える?】
内臓整体やオステオパシーを行うセラピストなら、
膵臓。
肝臓。
十二指腸。
横隔膜。
などへアプローチすることもあると思います。
この場合も、
「膵臓をリリースしたからインスリンが出る」
「肝臓を緩めたから血糖値が下がる」
と説明するのは避けた方がいいでしょう。
内臓周囲への徒手療法を行うのであれば、
周囲組織の可動性
呼吸運動
胸郭・腹壁の動き
患者さんの快適性
などを目的として位置づけます。
そして、
血糖値への医学的治療とは分けて考える。
ここが重要です。
【血糖値が気になる人に評価したい7つのポイント】
セラピストとして患者さんを見るなら、僕は次のように整理します。
①医学的状態
糖尿病の診断、HbA1c、服薬状況、合併症などを確認。
②食事
食事内容だけでなく、量・時間・間食などを見る。
③身体活動
歩数、運動習慣、座位時間などを確認。
④筋肉・運動機能
筋力、筋肉量、歩行能力、疼痛などを見る。
⑤睡眠
睡眠時間・質・生活リズムを確認。
⑥ストレス
慢性的なストレスや生活環境も確認する。
⑦身体症状
運動を妨げる腰痛・膝痛・神経症状などがないかを見る。
こうしてみると、
血糖値は、
「膵臓だけの問題ではない」
ということがよく分かると思います。
【セラピストが特に注意したい低血糖】
血糖値が高い患者さんを見るときに、
もう一つ忘れてはいけないのが、
低血糖
です。
特にインスリンや一部の血糖降下薬を使用している人では、運動などによって低血糖が起こる可能性があります。
例えば、
冷や汗。
手の震え。
動悸。
強い空腹感。
めまい。
集中力低下。
脱力。
意識状態の変化。
などが現れることがあります。
こうした症状が出た場合には、
通常の施術を続ける状況ではありません。
また重度の低血糖では意識障害などにつながることもあります。
運動療法を行うセラピストほど、
患者さんの服薬状況や低血糖リスクを把握しておく
ことが重要です。
【「血糖値が高い=施術で下げる」ではない】
最後に、非常に重要なことです。
高血糖や糖尿病は、
医学的管理が必要な状態
です。
徒手療法によって糖尿病そのものを治療できると考えるべきではありません。
特に、
著しい口渇。
多尿。
強い倦怠感。
意識状態の変化。
嘔吐。
脱水。
などがある場合には、医学的評価が必要になることがあります。
また糖尿病では、
末梢神経障害。
網膜症。
腎症。
血管障害。
足部病変。
などの合併症にも注意が必要です。
だからこそ、
「血糖値を下げる施術」
を探すより、
「血糖調節を理解したうえで、この患者さんの身体機能をどう支援できるか?」
を考える。
これがセラピストにとって重要です。
【まとめ|血糖値は“全身の代謝システム”を見る】
今回は、
血糖値をセラピストがどう考えるか
について解説しました。
血糖調節は、
膵臓
↓
インスリン・グルカゴン
↓
肝臓
↓
骨格筋
↓
腸
↓
自律神経・内分泌
↓
睡眠・ストレス・身体活動
というように、さまざまな要素が関係しています。
だから、
「血糖値=膵臓」
だけでは不十分です。
特にセラピストに知ってほしいのは、
骨格筋が単なる運動器ではなく、糖代謝に関わる重要な組織
だということ。
筋肉を動かす。
歩く。
身体活動量を増やす。
運動できない原因を減らす。
こうしたことも血糖管理を考えるうえで重要です。
そして徒手療法については、
「膵臓を触ってインスリンを増やす」
「肝臓を緩めて血糖値を下げる」
といった説明ではなく、
患者さんの
運動・呼吸・睡眠・疼痛・身体機能
を支える一つの手段として考える。
血糖値という「数字」を直接施術しようとするのではなく、
その数字を調節している全身の生理学を理解する。
この視点を持つと、
セラピストとして血糖値を見るときの考え方も大きく変わってくると思います。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

























