こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
内臓整体やオステオパシーを学んでいると、
「大腸をどう評価するのか?」
というテーマが出てくると思います。
大腸と聞くと、
「便秘の人にアプローチする」
「お腹を時計回りにマッサージする」
「硬いところを緩める」
といったイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、セラピストが大腸を見るなら、
単純に“大腸全体”を一つの臓器として触るだけでは不十分です。
なぜなら大腸は、
盲腸
↓
上行結腸
↓
横行結腸
↓
下行結腸
↓
S状結腸
↓
直腸
と続きますが、それぞれ、
位置。
固定性。
腹膜との関係。
周囲臓器。
血管。
自律神経。
体幹・骨盤との位置関係。
が異なるからです。
特に施術で重要なのは、
「大腸のどこを触っているのか?」を立体的に理解すること。
今回は、
上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸
を中心に、大腸を評価・アプローチするときに知っておきたい解剖学を整理していきます。
なお、徒手療法で便秘や大腸疾患そのものを治療できるという意味ではありません。
あくまで、
解剖学に基づいて腹部をどう評価するか
というセラピスト向けの内容です。
【①まず大腸を「一本の管」として見ない】
大腸は全体で約1.5mほどあり、小腸を囲むように腹腔内へ配置されています。
大きく見ると、
右下腹部
↓
右側腹部
↓
右上腹部
↓
上腹部
↓
左上腹部
↓
左側腹部
↓
左下腹部
↓
骨盤内
というように走行します。
ここで重要なのが、
すべての部位が同じように動くわけではない
ということです。
例えば、
上行結腸と下行結腸は、一般に後腹壁へ比較的固定されています。
一方で、
横行結腸やS状結腸には、
結腸間膜
があり、比較的可動性があります。
つまり大腸を触るときは、
「硬い・柔らかい」
だけではなく、
その部位は本来どの程度動ける構造なのか?
を知っておく必要があります。
これだけでも大腸の触診は大きく変わります。
【②上行結腸|右下腹部から肝臓方向へ】
まず、
上行結腸
です。
上行結腸は盲腸から始まり、腹部右側を上方へ走ります。
そして右上腹部で、
右結腸曲(肝彎曲)
を形成し、横行結腸へ移行します。
上行結腸を見るときに重要なのが、
「右側には何があるのか?」
という立体解剖です。
周囲には、
小腸。
右腎。
十二指腸。
肝臓。
腹壁。
腸腰筋周辺。
などがあります。
つまり、
「右腹部が硬いから上行結腸」
と単純には判断できません。
大腸そのものだけではなく、
前後・内外・上下に何が存在するのか
を考えながら触れる必要があります。
特に上方へ進むと、
肝臓との位置関係
が重要になってきます。
【③肝彎曲はなぜ重要なのか?】
上行結腸から横行結腸へ移行する部分が、
右結腸曲(肝彎曲)
です。
名前の通り、
肝臓の下面付近
に位置しています。
さらに周囲には、
横隔膜。
十二指腸。
右腎。
胆嚢周辺。
などがあります。
そのため肝彎曲を見る場合、
単に、
「大腸が曲がっている場所」
として見るのではなく、
肝臓・横隔膜・右上腹部を含めた一つの領域
として捉えると分かりやすくなります。
例えば呼吸すると、
横隔膜が動きます。
それに伴って腹腔内臓器も位置変化します。
そのため僕なら、
肝彎曲周辺だけを押して硬さを見るのではなく、
呼吸に伴って右上腹部全体がどう変化するのか
も観察します。
「肝彎曲を緩めれば便秘が治る」
という話ではありません。
右上腹部の立体的な可動性を評価する。
この視点が重要です。
【④横行結腸|大腸の中でも可動性が大きい】
次に、
横行結腸
です。
横行結腸は右結腸曲から左結腸曲まで、上腹部を横断します。
ここで非常に重要なのが、
横行結腸間膜
です。
横行結腸は結腸間膜によって後腹壁側とつながっており、上行結腸・下行結腸と比較すると可動性のある領域です。
さらに横行結腸周囲には、
胃。
大網。
肝臓。
胆嚢。
膵臓。
十二指腸。
小腸。
など、重要な腹部臓器が存在します。
そのため上腹部を触診して、
「これは横行結腸の硬さだ」
と一つの臓器へ決めつけることはできません。
重要なのは、
層を意識すること。
皮膚。
皮下組織。
腹壁。
腹膜。
腹腔内臓器。
というように、
自分の手がどの深さの情報を受け取っているのか?
を意識します。
【⑤横行結腸を見るなら「胃」と「大網」も知っておく】
横行結腸を学ぶときに外せないのが、
胃と大網
です。
大網は胃の大彎側から垂れ下がる腹膜構造で、横行結腸とも解剖学的に密接な関係があります。
つまり上腹部では、
胃
↓
大網
↓
横行結腸
という位置関係を考える必要があります。
もちろん実際の腹腔内は、こんな単純な三層構造ではありません。
しかしセラピストが触診するときには、
「横行結腸の前後には何があるのか?」
を頭の中で立体化することが重要です。
これがない状態で、
「ここが横行結腸です」
と深く押してしまうのは避けたいところです。
内臓アプローチでは、
強く押せることより、どの構造へ触れている可能性があるのかを理解していること
の方が重要です。
【⑥下行結腸|左上腹部から左下腹部へ】
次は、
下行結腸
です。
横行結腸は左上腹部で、
左結腸曲(脾彎曲)
を形成し、下行結腸へ移行します。
下行結腸は腹部左側を下方へ走り、
最終的にS状結腸へつながります。
上行結腸と同様に、
下行結腸も比較的後腹壁へ固定された構造です。
周囲には、
左腎。
小腸。
腹壁。
腸腰筋。
腰方形筋周辺。
などがあります。
そのため、
左側腹部の違和感。
左腰部の緊張。
腹壁の硬さ。
などがあっても、
「下行結腸が原因」
と即断しないことが大切です。
あくまで、
左腹部を構成する一つの構造として下行結腸を見る。
この考え方が重要です。
【⑦脾彎曲は肝彎曲と同じではない】
右側に肝彎曲があるように、
左側には、
脾彎曲(左結腸曲)
があります。
ここで面白いのが、
左右の結腸曲は完全な左右対称ではないことです。
一般的に左結腸曲は右結腸曲より高位にあり、
周囲には、
脾臓。
胃。
横隔膜。
左腎。
膵尾部周辺。
などがあります。
そのため脾彎曲を見るときも、
大腸だけを孤立して考えない
ことが重要です。
特に上腹部では、
横隔膜との位置関係を考えます。
呼吸に伴って下位胸郭がどう動くのか?
左右差はあるのか?
腹壁はどう変化するのか?
こうした情報も一緒に見ると、
「大腸の一点を触る」から「左上腹部全体を見る」
という評価へ変わってきます。
【⑧S状結腸|可動性のある大腸を骨盤内で考える】
そして大腸アプローチで非常に重要なのが、
S状結腸
です。
下行結腸から続き、骨盤内へ向かって走行し、直腸へ移行します。
S状結腸には、
S状結腸間膜
があります。
そのため比較的可動性のある構造です。
ここが上行結腸や下行結腸との大きな違いです。
S状結腸を見るときは、
大腸だけではなく、
骨盤
という視点を持ちます。
周囲には、
小腸。
膀胱。
直腸。
生殖器系。
腸骨血管周辺。
骨盤壁。
などがあります。
つまり、
左下腹部=S状結腸
と単純化するのではなく、
骨盤腔全体の解剖を理解する必要があります。
【⑨S状結腸を見るなら「骨盤底」まで見る】
S状結腸からさらに下方へ進むと、
直腸があります。
そして骨盤の下方には、
骨盤底筋群
があります。
排便は大腸だけで成立するわけではありません。
便の形成。
大腸内での輸送。
直腸への貯留。
内肛門括約筋。
外肛門括約筋。
骨盤底。
腹圧。
自律神経。
こうした要素が協調して成立します。
特に排便時には、
恥骨直腸筋
なども重要です。
だから、
「便秘だからS状結腸を緩める」
だけでは、評価としては不十分です。
セラピストとして見るなら、
腹壁はどうか?
呼吸はどうか?
腹圧を適切に使えるか?
骨盤底を過剰に緊張させていないか?
排便姿勢はどうか?
身体活動量はどうか?
などへ評価を広げます。
【⑩大腸を見るなら「結腸間膜」を理解する】
内臓アプローチを行うセラピストには、
腹膜・間膜
の理解が非常に重要です。
大腸は、
腹腔内にただ浮いているわけではありません。
部位によって、
後腹壁へ比較的固定されているところ。
間膜を持ち可動性があるところ。
他の腹膜構造と連続しているところ。
があります。
大きく整理すると、
上行結腸・下行結腸
→ 比較的固定性が高い
横行結腸
→ 横行結腸間膜を持つ
S状結腸
→ S状結腸間膜を持つ
という違いがあります。
この違いを知っていると、
すべての大腸に対して、
同じ方向・同じ深さ・同じ考え方でアプローチする
という発想から抜け出せます。
【⑪大腸と自律神経はどう関係する?】
大腸を見るなら、
自律神経
も理解しておきたいところです。
消化管機能には、
腸管神経系。
副交感神経系。
交感神経系。
などが関与しています。
特に大腸では、部位によって副交感神経支配が異なります。
近位側の結腸では主に、
迷走神経
が関与します。
一方、遠位結腸から直腸周辺では、
骨盤内臓神経(S2〜S4)
が関与します。
交感神経についても、上腸間膜神経叢・下腸間膜神経叢などを介した支配があります。
つまり大腸は、
一本の同じ神経支配を受ける管ではありません。
ここも解剖学的に非常に面白いポイントです。
ただし、
「仙骨を施術すれば副交感神経が活性化して便秘が治る」
「迷走神経を調整すれば大腸が動く」
と単純化するのは避けた方がいいでしょう。
自律神経は、
大腸機能を調節するシステムの一部
として理解します。
【⑫大腸アプローチでは「呼吸」も評価する】
大腸と呼吸は関係なさそうに見えるかもしれません。
しかし解剖学的に見ると、
肝彎曲・脾彎曲は、
横隔膜に比較的近い領域
にあります。
さらに呼吸によって、
横隔膜。
腹壁。
腹腔内圧。
腹部臓器。
が動きます。
だから腹部を評価するとき、
僕は患者さんに呼吸してもらいながら、
手の下の組織がどう変化するのか
を見ることがあります。
吸気でどうなる?
呼気でどうなる?
右上腹部と左上腹部で違いはある?
下腹部はどう動く?
というように観察します。
大腸を静止した臓器としてではなく、
呼吸・姿勢・動作の中に存在する臓器
として見ることが重要です。
【⑬「便秘=大腸が硬い」ではない】
大腸アプローチで最も注意したいところです。
便秘の患者さんを見ると、
「大腸が硬いから便が出ない」
と考えたくなるかもしれません。
しかし便秘には、
食事。
水分。
身体活動。
薬剤。
生活リズム。
便意の我慢。
腸管通過。
排便機能。
骨盤底機能。
疾患。
など、さまざまな要素が関係します。
さらに便秘にも、
慢性便秘症のさまざまな病態
があります。
だから、
「大腸を緩めれば便秘が改善する」
という単純な説明は避けるべきです。
徒手療法を行うのであれば、
腹壁・呼吸・体幹・骨盤周囲などを含めた身体機能への介入として考え、
医学的な便秘治療とは分けて考える必要があります。
【⑭大腸を触る前に評価したいポイント】
では実際に、大腸周辺へアプローチする前に何を見るのか?
僕ならまず、
腹部全体を観察します。
いきなり、
「上行結腸!」
と一点へ触れにいきません。
まず、
腹部膨満はあるか?
左右差はあるか?
呼吸で腹部は動くか?
圧痛はないか?
腹壁の防御性収縮はないか?
手術痕はあるか?
患者さんが強い不快感を感じないか?
などを確認します。
その後、
右下腹部。
右側腹部。
右上腹部。
上腹部。
左上腹部。
左側腹部。
左下腹部。
と、
大腸の走行を頭の中に描きながら評価する。
そして、
「どこが悪いか?」
ではなく、
「どこでどのような違いを感じるか?」
として情報を集めます。
【⑮大腸アプローチをするなら「前後」で比較する】
内臓アプローチで重要なのは、
施術したことではなく、施術後に何が変わったか
です。
例えば、
右腹部へアプローチした。
その後、
腹部の圧痛はどうか?
呼吸時の腹壁運動はどうか?
体幹回旋はどうか?
股関節運動はどうか?
患者さん自身の感覚はどうか?
などを再評価します。
便秘の患者さんであっても、
その場で、
「腸が動いたから治った」
と判断するのではありません。
評価。
仮説。
介入。
再評価。
この流れを繰り返します。
これは大腸に限らず、内臓アプローチ全般で非常に重要です。
【大腸アプローチで知っておきたい4つの違い】
ここまでを臨床向けにシンプルに整理すると、
①上行結腸
右側腹部。比較的固定性があり、上方では肝臓・横隔膜・右腎などとの位置関係を見る。
②横行結腸
上腹部。横行結腸間膜を持ち、胃・大網・膵臓などとの立体的位置関係を見る。
③下行結腸
左側腹部。比較的固定性があり、左腎・腹壁・後腹壁周辺との関係を見る。
④S状結腸
左下腹部から骨盤内。S状結腸間膜を持ち、比較的可動性があり、直腸・骨盤底まで視野を広げる。
つまり、
同じ大腸でも全部同じようには触らない。
これが今回最も伝えたいポイントです。
【大腸アプローチで注意したい症状】
腹部への徒手療法では、
「触っていい状態なのか?」
を判断することも重要です。
例えば、
突然の強い腹痛。
持続する激しい腹痛。
発熱。
繰り返す嘔吐。
血便・黒色便。
著しい腹部膨満。
腹部が強く硬くなる。
原因不明の体重減少。
排便・排ガスが止まり強い腹痛や嘔吐を伴う。
などがある場合には、徒手療法を優先する状況ではありません。
炎症性腸疾患、憩室炎、腸閉塞などを含め、医学的評価が必要な状態もあります。
また大腸がんなどの疾患でも排便習慣の変化や血便などがみられることがあります。
「腹部症状=内臓を緩める」
ではなく、
必要な場合には医療機関での評価につなげることも、セラピストに必要な判断です。
【まとめ|大腸は「一本の管」ではなく部位ごとに見る】
今回は、
上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸をどう見るのか?
というテーマで、大腸アプローチに必要な解剖学を整理しました。
大腸は、
盲腸
↓
上行結腸
↓
肝彎曲
↓
横行結腸
↓
脾彎曲
↓
下行結腸
↓
S状結腸
↓
直腸
と連続しています。
しかし、
全部が同じ構造・同じ固定性ではありません。
上行結腸・下行結腸は比較的固定されている。
横行結腸には横行結腸間膜がある。
S状結腸にはS状結腸間膜がある。
さらに、
肝臓。
胃。
脾臓。
腎臓。
横隔膜。
大網。
小腸。
骨盤底。
自律神経。
など、周囲との位置関係も部位によって変わります。
だから大腸アプローチで重要なのは、
「大腸をどこからどこへ流すか」だけを覚えることではありません。
今、自分の手の下には何があるのか?
その臓器はどこへ固定されているのか?
周囲には何があるのか?
呼吸するとどう変化するのか?
介入すると患者さんの身体機能はどう変わるのか?
ここまで考える。
大腸を一本の管として触るのではなく、立体的な解剖学として触る。
この視点が身につくと、内臓アプローチの評価もかなり変わってくると思います。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

























