その他

【顎関節リリース】顎を緩めるとなぜ全身が変わる?股関節・横隔膜・肩甲骨との関係を徹底解説

こんにちは。

ALLアプローチ協会の山口です。


今回のテーマは、

「顎関節リリースと全身の関係」

です。

臨床で顎周囲へアプローチしたあと、

「首が回りやすくなった」

「肩が上がりやすくなった」

「呼吸がしやすくなった」

さらには、

「股関節の動きまで変化した」

という経験をしたことがあるセラピストもいると思います。

では、

なぜ顎を触ったあとに、顎から離れた部位まで変化することがあるのでしょうか?

「筋膜で全部つながっているから」

だけでは、少し説明が足りません。

顎関節周囲には、

舌骨・頸椎・三叉神経・咀嚼筋・翼突筋静脈叢

など、全身を考えるうえで興味深い構造が集まっています。

さらに頭部を支える頸椎、その下の胸郭・横隔膜・腰椎・骨盤まで広げていくと、顎を局所だけで評価しない理由が見えてきます。

今回は、

「どの構造を介して関係しているのか?」

をできるだけ具体的に解剖していきます。

ただし、解剖学的につながっていることと、顎への介入によって遠隔部位が必ず改善することは別です。

この2つを区別しながら見ていきましょう。


【1|まず知っておきたい顎関節の構造】

顎関節は、

側頭骨と下顎骨

によって形成されます。

具体的には、

側頭骨の下顎窩・関節結節

下顎骨の下顎頭

が関係します。

さらに、その間には、

関節円板

があります。

顎関節運動は単純な蝶番運動ではありません。

開口では回転運動に加えて、開口量が大きくなるにつれて下顎頭・関節円板複合体の並進が重要になります。

つまり、

回転+並進

によって大きな開口運動を作っています。

そして顎関節周囲には、

咬筋

側頭筋

内側翼突筋

外側翼突筋

などの咀嚼筋があります。

しかし全身との関係を考えるなら、ここだけを見ていては不十分です。


【2|下顎骨は「舌骨」と筋肉でつながっている】

下顎骨から下へ解剖していくと、

舌骨

が出てきます。

下顎骨と舌骨の間には、

顎二腹筋

顎舌骨筋

オトガイ舌骨筋

などがあります。

例えば顎舌骨筋は、

下顎骨の顎舌骨筋線

から、

舌骨・正中縫線

へ付着します。

オトガイ舌骨筋も、

下顎骨→舌骨

へ走行します。

つまり、

下顎骨→舌骨

には明確な筋性連結があります。

顎を「顎だけ」で見ない理由の一つがここにあります。


【3|さらに舌骨は胸骨・肩甲骨へつながっている】

舌骨の下側には、

舌骨下筋群

があります。

代表的なのが、

胸骨舌骨筋

肩甲舌骨筋

胸骨甲状筋

甲状舌骨筋

です。

胸骨舌骨筋は、

胸骨側から舌骨

へ走ります。

さらに注目したいのが、

肩甲舌骨筋

です。

肩甲舌骨筋は肩甲骨上縁付近から起こり、中間腱を介して舌骨へ停止します。

そのため、

下顎骨

舌骨上筋群

舌骨

肩甲舌骨筋

肩甲骨

という解剖学的な連結をたどることができます。

ただし、この連結があるからといって、

「顎を緩めれば肩甲骨が必ず緩む」

という意味ではありません。


【4|顎関節と頸椎は運動学的にも切り離せない】

顎関節を見るうえで非常に重要なのが、

頸椎

です。

下顎骨は頭蓋骨に対して動きます。

そして、その頭蓋骨を下から支えているのが頸椎です。

そのため、

下顎運動と頭頸部運動

を完全に別々のシステムとして考えることはできません。

TMDと頸部機能についても、

頸部ROM

頸部筋機能

頸部機能障害

などとの関連が報告されています。

だから顎関節を見る場合、

後頭骨→上位頸椎→下位頸椎

まで評価する意味があります。


【5|顎関節リリースで肩の可動域が変わる理由】

顎周囲への介入後に肩関節の動きが変化する場合があります。

このとき、

「顎から肩まで筋膜で引っ張っている」

と考える必要はありません。

解剖学的には、

下顎骨→舌骨→肩甲舌骨筋→肩甲骨

という関係があります。

もう一つは、

頭蓋骨→頸椎→胸椎・胸郭→肩甲骨

という骨格・運動学的関係です。

肩甲骨は胸郭上を動きます。

上肢挙上では、

上方回旋

後傾

外旋

などの肩甲骨運動が組み合わされます。

したがって、

顎・頭頸部

頸椎

胸郭

肩甲骨

上肢

という順番で評価すると、遠隔部の変化を整理しやすくなります。


【6|顎関節と横隔膜は「直接つながっている」のか?】

結論から言えば、

顎関節と横隔膜を直接結ぶ一本の筋肉はありません。

そのため、

顎関節→筋膜→横隔膜

と一本線で説明するのは避けた方がいいでしょう。

見るべきなのは、

下顎・口腔

舌・舌骨

頸部

上気道・胸郭

呼吸運動

という関係です。


【7|横隔膜を動かす神経は「頸部」から出ている】

横隔膜の主要な運動神経である、

横隔神経

は主に、

C3・C4・C5

の頸神経前枝から形成されます。

横隔神経は頸部を下降し、胸腔内を通って横隔膜へ向かいます。

つまり横隔膜は胸郭下部に存在しますが、その主要な運動神経支配は、

頸髄由来

です。

ただし、

顎関節を緩める→C3〜C5を刺激→横隔神経を促通→横隔膜が緩む

という機序が証明されているわけではありません。

横隔神経の解剖と顎関節リリースの効果機序は分けて考える必要があります。


【8|顎・舌・舌骨は「呼吸の入口」に存在する】

呼吸は横隔膜だけで成立するわけではありません。

空気は、

鼻腔・口腔

咽頭

喉頭

気管

気管支

へ入ります。

そして、

下顎・舌・舌骨

は上気道周囲に存在します。

そのため顎関節を評価するときには、

咀嚼筋だけではなく、舌・舌骨・頸部・胸郭・呼吸

まで確認する価値があります。


【9|顎関節から股関節まで直接つながる筋肉はない】

ここは明確にしておきます。

顎関節から股関節まで直接走行する筋肉は存在しません。

したがって、

「顎の張力が一本の筋膜を通って股関節まで伝わる」

という説明は単純化しすぎています。

顎への介入後に股関節ROMが変化した場合には、

局所解剖だけではなく、

頭部・頸部・体幹・呼吸・姿勢・運動制御

まで含めて考える必要があります。


【10|顎関節リリースと「三叉神経・自律神経」の関係】

ここから神経系を見ていきます。

顎関節周囲には、

三叉神経

が深く関係します。

特に顎関節の感覚には、

三叉神経第3枝である下顎神経(V3)

から分かれる耳介側頭神経などが関与します。

またV3は、

咀嚼筋の運動

にも関係します。

つまり顎関節は、

三叉神経系と非常に関係の深い領域

です。

顎関節や咀嚼筋から入った感覚情報は、三叉神経を介して脳幹の三叉神経感覚核群などへ伝えられます。

そして脳幹には、

呼吸

循環

自律神経調節

などに関係する複数の神経ネットワークが存在します。

さらに三叉神経入力と自律神経反応が結びつく、

三叉神経―自律神経反射

も知られています。

したがって臨床では、

顎関節・咀嚼筋への介入

三叉神経系への感覚入力の変化

中枢神経系での情報処理の変化

という視点を持つことができます。

ただし、

「顎を緩めれば副交感神経が優位になる」

「顎関節リリースで迷走神経が直接刺激される」

とまでは言い切れません。

三叉神経と自律神経の神経生理学的な関連と、施術による治療効果は分けて考える必要があります。


【11|頸椎(首)と骨盤の連動―ロベット・ブラザーの法則】

オステオパシーなどの領域では、

「ロベット・ブラザーの法則」

という考え方があります。

これは脊柱の上部と下部を対応させ、

上位頸椎と骨盤・仙骨を含む下部構造の動きを関連づけて捉える臨床モデル

です。

顎関節は頭蓋骨に存在し、その頭蓋骨を頸椎が支えています。

そのため臨床では、

顎関節

頭部・上位頸椎

脊柱

骨盤

まで全体を評価する考え方があります。

ただし重要なのは、

ロベット・ブラザーの法則を現代医学で確立された普遍的な生体力学法則として扱わないこと

です。

「この椎骨が動けば対応する椎骨が必ずこの方向へ動く」と断定するのではなく、

頭部・脊柱・骨盤を局所だけでなく全体として観察するための臨床モデル

として利用する方が適切です。

顎関節への介入前後で、

頸部回旋

頭部位置

体幹

骨盤

などを再評価すると、局所だけでは分からなかった変化を捉えられることがあります。


【12|顎関節リリースと「頭部重量 約5kg」のバランス】

成人の頭部重量は個人差がありますが、

およそ4〜6kg程度

とされることが多く、臨床では分かりやすく、

「約5kg」

と表現されることがあります。

この頭部を支えているのが、

頸椎と頸部筋群

です。

重要なのは単純な重量だけではありません。

頭部の重心が頸椎から前方へ移動すれば、頸部にはその位置関係に応じたモーメントが生じ、頭部を保持するために頸部筋群が働く必要があります。

顎関節もこの頭蓋―頸椎システムの一部です。

そのため顎関節を評価するときには、

咬筋の硬さだけを見るのではなく、頭部が頸椎上でどのような位置にあるか

を見ることが重要です。

顎関節リリース後にも、

頭部位置

頸椎アライメント

頸部ROM

咀嚼筋の緊張

などを再評価します。

ただし、

「顎を緩めれば5kgの頭が正しい位置へ戻る」

と単純化するのではなく、

顎関節と頭頸部を一つの機能系として評価する視点が重要です。


【13|次に関連性が強いのが「頸部」】

全身へ広げるなら、いきなり骨盤や股関節を見るのではなく、

まず頸部

です。

TMDと頸部については比較的研究が多く、

頸部ROM

頸部筋持久力

頸部機能障害

などとの関連が報告されています。

したがって、

顎関節→頭頸部

は、今回紹介する全身との関連の中でも比較的説明しやすい領域です。

遠隔部の変化を考える場合も、まずここから確認します。


【14|肩甲骨を見るなら「舌骨」と「胸郭」を挟む】

肩甲骨を見る場合は、

顎→肩甲骨

と一気につなげません。

筋骨格系では、

下顎骨

舌骨上筋群

舌骨

肩甲舌骨筋

肩甲骨

という解剖学的関係があります。

一方、運動学的には、

頭頸部

頸椎・胸椎

胸郭

肩甲骨

上腕骨

という関係があります。

この2つを分けて考えると、

なぜ顎関節を見るときに肩甲骨や胸郭も評価するのか

が整理しやすくなります。


【15|横隔膜を見るなら「舌骨・頸部・胸郭」を挟む】

横隔膜も同様です。

顎→横隔膜

と直接つなげるのではなく、

下顎

舌・舌骨

頸部・上気道

胸郭

呼吸運動

横隔膜

という順番で考えます。

横隔膜は主要な吸気筋です。

そのため、

顎関節を見るなら呼吸も評価する。

反対に、

呼吸を見るなら胸郭・横隔膜だけでなく、頭頸部や上気道周囲も確認する。

という視点が生まれます。


【16|股関節を見るなら「腰椎・大腰筋」を挟む】

股関節の場合も、

顎→股関節

ではありません。

大腰筋は腰椎領域から起こり、

大腿骨小転子

へ停止します。

一方、横隔膜の脚は、

腰椎椎体

へ付着します。

さらに、

内側弓状靱帯は大腰筋上を弓状に走る

という解剖学的位置関係があります。

したがって、

横隔膜

腰椎

大腰筋

大腿骨

股関節

という構造をたどることができます。

全身を見る場合には、

顎・舌骨→頸部→胸郭・呼吸→横隔膜→腰椎→大腰筋→股関節

と整理すると理解しやすくなります。

ただしこれは、

顎から股関節まで施術の力が伝わる経路

を示したものではありません。


【17|翼突筋静脈叢による頭頸部循環との関係】

顎関節周囲を見るうえでもう一つ知っておきたいのが、

翼突筋静脈叢(よくとつきんじょうみゃくそう)

です。

翼突筋静脈叢は、

側頭下窩

に存在する静脈のネットワークで、

内側翼突筋・外側翼突筋周囲

に広がっています。

この静脈叢は、

顎・顔面領域の静脈

などと交通し、さらに深部顔面静脈などを介して顔面静脈系とも連絡します。

また、

海綿静脈洞

とも導出静脈を介した交通があります。

最終的には顎静脈系を介して頭頸部の静脈還流に関与します。

つまり翼突筋周囲は、

咀嚼筋だけではなく、重要な静脈ネットワークが存在する領域

でもあります。

ここから臨床では、

翼突筋周囲の筋緊張や顎運動と局所循環との関係

に注目することがあります。

ただし、

翼突筋をリリースすれば翼突筋静脈叢が圧迫から解放され、頭部循環が改善する

という治療機序が確立されているわけではありません。

したがって、

翼突筋静脈叢という解剖学的構造が存在すること

と、

手技による循環改善効果

は分けて説明する必要があります。


【18|顎関節リリースで全身を見るなら、この順番を覚える】

最後に整理します。

まず局所では、

側頭骨

関節円板・下顎頭

咀嚼筋・翼突筋

三叉神経・局所血管系

を見ます。

次に、

下顎骨

舌骨上筋群

舌骨

舌骨下筋群

頭頸部・頸椎

へ広げます。

そこから、

肩方向:胸郭→肩甲骨

呼吸方向:上気道・胸郭→横隔膜

下肢方向:横隔膜→腰椎→大腰筋→股関節

へ広げていきます。

さらに神経系では、

三叉神経→脳幹の感覚処理・自律神経関連ネットワーク

という視点も加えます。

こうすると顎関節を、

筋肉だけではなく「関節・神経・循環・呼吸・姿勢」から評価できる

ようになります。


【まとめ|顎関節は「顎だけ」の問題ではない】

顎関節は、

側頭骨と下顎骨

によって形成されています。

しかし、その周囲には、

咀嚼筋

三叉神経

翼突筋静脈叢

があります。

下顎骨から下へたどれば、

舌骨上筋群→舌骨→舌骨下筋群

があります。

頭蓋骨を支えるのは、

頸椎

です。

さらにその下には、

胸郭・横隔膜・腰椎・骨盤

があります。

そして腰椎と股関節の間には、

大腰筋

があります。

つまり顎関節を全身から考える場合、

関節だけではなく、筋・神経・血管・頭頸部・呼吸・体幹まで見る

という視点が重要になります。

ただし、

顎を緩めれば自律神経が整う。

顎を緩めれば頭部循環が改善する。

顎を緩めれば骨盤が整う。

顎を緩めれば横隔膜や股関節が緩む。

これらを一律の治療効果として断定することはできません。

大切なのは、

「全部つながっているから」

で終わらせないことです。

どの骨とどの筋がつながるのか?

どの神経が関与するのか?

どの血管が走行するのか?

どこまでが解剖学的事実で、どこからが臨床的な仮説なのか?

ここまで考えることで、顎関節リリースをより深く臨床に落とし込めるようになります。

ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

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