こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
今回のテーマは、
「脳脊髄液(CSF)の流れ」
です。
頭蓋仙骨療法などを学んでいると、
「脳脊髄液の流れを良くする」
「脳脊髄液が滞っている」
「頭蓋から仙骨までCSFが循環している」
といった表現を聞くことがあります。
では実際、
脳脊髄液はどこを流れているのでしょうか?
そして、
本当に“滞りやすい場所”は存在するのでしょうか?
脳脊髄液を理解するときに大切なのは、
「頭蓋骨が硬いから流れない」
「仙骨が動かないからCSFが止まる」
といった説明から入るのではなく、
まず、
CSFがどこで産生され、どこを通り、どこへ排出されるのか?
という解剖学を理解することです。
今回は、
モンロー孔・中脳水道・第四脳室・大後頭孔・くも膜下腔・静脈洞・リンパ系
など、実際のCSF動態に関係する構造を中心に解説します。
さらに後半では、
小脳テント
矢状縫合
胸郭出口
横隔膜
骨盤隔膜
まで範囲を広げ、
セラピストが全身からCSF動態を考えるときに知っておきたい解剖学も整理していきます。
【1|そもそも脳脊髄液(CSF)とは?】
脳脊髄液は、
脳と脊髄の周囲を満たしている液体
です。
英語では、
Cerebrospinal Fluid:CSF
と呼ばれます。
成人では、およそ150mL前後のCSFが頭蓋内・脊柱管内に存在するとされています。
CSFには、
脳・脊髄に対する機械的保護
浮力による脳重量の支持
中枢神経系の化学的環境の維持
代謝物・物質輸送への関与
など、さまざまな役割があります。
ここで重要なのは、
CSFは頭蓋骨の中だけに存在するわけではない
ということです。
脳室から頭蓋内のくも膜下腔へ出たCSFは、脳や脊髄周囲のくも膜下腔に存在します。
したがって脳脊髄液を理解するには、
脳室→頭蓋内→頭蓋頸椎移行部→脊柱管
まで見る必要があります。
【2|脳脊髄液はどこで作られる?】
CSF産生で特に重要なのが、
脈絡叢
です。
脈絡叢は主に、
側脳室
第三脳室
第四脳室
に存在します。
従来は、
「CSF=脈絡叢で作られる」
と説明されることが多くありました。
現在ではCSFと脳間質液との水・溶質交換なども含め、より動的なシステムとして研究されています。
ただ、臨床解剖を理解するうえでは、
CSF産生の中心的な構造が脈絡叢である
という基本をまず押さえておけばよいでしょう。
【3|まず覚えたい「脳脊髄液の流れ」】
CSFの基本的な経路を整理すると、
側脳室
↓
モンロー孔(室間孔)
↓
第三脳室
↓
中脳水道
↓
第四脳室
↓
マジャンディー孔・ルシュカ孔
↓
脳槽・くも膜下腔
↓
頭蓋内・脊髄周囲
となります。
その後のCSF排出には、
くも膜顆粒から硬膜静脈洞へ向かう経路
だけではなく、
髄膜リンパ管
篩板・嗅神経周囲を介するリンパ系経路
なども関係すると考えられています。
つまり、
産生→脳室内経路→くも膜下腔→排出
という全体像で考える必要があります。
では、この経路を一つずつ見ていきましょう。
【4|①モンロー孔|側脳室から第三脳室へ向かう狭い通路】
最初の重要ポイントが、
モンロー孔(室間孔)
です。
左右の側脳室と第三脳室をつないでいます。
CSFは、
側脳室→モンロー孔→第三脳室
と移動します。
ここで重要なのが、
モンロー孔は比較的狭い通路
だということです。
腫瘤や嚢胞などによって閉塞すると、側脳室から第三脳室へのCSF移動が障害され、
閉塞性水頭症
につながることがあります。
つまり「CSFがどこで物理的に流れにくくなり得るのか?」を考えるなら、非常に重要な場所です。
【5|②第三脳室|左右から集まったCSFの中継地点】
モンロー孔を通過したCSFは、
第三脳室
へ入ります。
第三脳室は、
間脳の正中部
に位置する細い腔です。
ここからCSFは、
中脳水道
へ向かいます。
第三脳室そのものも重要ですが、特に注目したいのは、
その先に非常に細い通路が存在する
ということです。
それが次の中脳水道です。
【6|③中脳水道|CSF経路でも特に狭い場所】
CSF循環を勉強するなら、
中脳水道
は必ず覚えておきたい構造です。
中脳水道は、
第三脳室と第四脳室
をつなぎます。
脳室系の中でも非常に細い管腔であるため、
CSF流路の閉塞が問題になりやすい部位
の一つです。
中脳水道が狭窄・閉塞すると、
第四脳室より上流側の脳室が拡大する閉塞性水頭症
につながることがあります。
「CSFが滞る場所」というテーマを医学的に考えるなら、
中脳水道は代表的なポイント
といえます。
【7|④第四脳室|脳室系から外へ出る直前の中継地点】
中脳水道を通ったCSFは、
第四脳室
へ入ります。
第四脳室は、
橋・延髄の背側と小脳の間
に位置します。
そして第四脳室からCSFは、
脳室系の外側にあるくも膜下腔
へ向かいます。
その出口になるのが、
マジャンディー孔
と
ルシュカ孔
です。
つまり第四脳室は、
脳室系→くも膜下腔
へ移行する直前の重要な中継地点です。
【8|⑤マジャンディー孔・ルシュカ孔|脳室系から出る「出口」】
第四脳室には、
正中口
と
外側口
があります。
正中口が、
マジャンディー孔
です。
左右の外側口が、
ルシュカ孔
です。
CSFはこれらを介して、
第四脳室からくも膜下腔
へ出ていきます。
そのため、
「CSFが作られる場所」だけでなく「脳室から出る場所」
を理解することが重要です。
これらの出口が病的に閉塞すれば、CSF動態に大きな影響を与える可能性があります。
【9|⑥大槽|頭蓋底に存在する大きなCSFスペース】
第四脳室から出たCSFとの関係で重要なのが、
大槽(cisterna magna)
です。
大槽は、
小脳と延髄の間
に存在する大きなくも膜下槽です。
第四脳室正中口から出たCSFは大槽へ交通します。
ここで重要なのが、
そのすぐ下に、
大後頭孔
があることです。
つまり、
第四脳室
↓
マジャンディー孔
↓
大槽
↓
大後頭孔周囲
という位置関係になります。
頭蓋内と脊柱管内のCSF動態を考えるうえで重要な領域です。
【10|⑦大後頭孔・頭蓋頸椎移行部|頭蓋と脊柱管をつなぐ重要ポイント】
セラピストに特に知ってほしいのが、
大後頭孔・頭蓋頸椎移行部
です。
ここには、
延髄から脊髄への移行部
が存在します。
同時に、
頭蓋内くも膜下腔と脊髄くも膜下腔
も連続しています。
つまり大後頭孔周囲は、
頭蓋内と脊柱管内のCSF動態をつなぐ重要な場所
です。
例えばChiari奇形では、小脳扁桃の下垂などによって大後頭孔周辺のCSF流動が障害されることがあります。
このことからも、
頭蓋頸椎移行部はCSF動態上非常に重要
だと分かります。
ただし、
後頭下筋群が硬い=大後頭孔でCSFが閉塞している
という意味ではありません。
筋緊張と病的なCSF閉塞は分けて考える必要があります。
【11|⑧脊髄くも膜下腔|CSFは脊髄の周囲にも存在する】
大後頭孔から下方では、
脊髄くも膜下腔
が重要になります。
CSFは脳周囲だけではなく、
脊髄周囲
にも存在します。
脊髄くも膜下腔は頭蓋内のくも膜下腔と連続しており、腰仙部まで続きます。
成人では脊髄そのものは一般的にL1〜L2付近で終わりますが、硬膜嚢・くも膜下腔はさらに尾側へ続き、
S2付近
まで達します。
腰部では脊髄が存在しないくも膜下腔が広がり、
腰槽
を形成します。
腰椎穿刺がこの領域で行われるのも、この解剖学的理由によります。
【12|⑨くも膜顆粒・硬膜静脈洞|CSFの「出口」を考える】
CSF循環は、
どこを通るか
だけではありません。
どこから排出されるのか
も重要です。
古典的なCSF循環モデルで重要なのが、
くも膜顆粒
です。
くも膜顆粒は硬膜静脈洞側へ突出し、特に、
上矢状静脈洞
との関係が知られています。
CSFはくも膜顆粒を介して静脈系へ移行すると説明されてきました。
つまり、
CSF圧
と
静脈系
は無関係ではありません。
ただし現在のCSF排出モデルは、これだけではありません。
【13|⑩篩板・髄膜リンパ系|CSFはリンパ系にもつながる】
近年特に注目されているのが、
リンパ系へのCSF排出
です。
重要なのが、
篩板周囲
嗅神経周囲
髄膜リンパ管
などです。
CSF・髄膜周囲の液体は、これらの経路を介して頭蓋外のリンパ系と関係します。
その先には、
深頸リンパ節
などがあります。
つまり現在では、
CSF→くも膜顆粒→静脈洞
だけでなく、
CSF・髄膜周囲→リンパ系
という経路も含めて考える必要があります。
ここは従来のCSF循環モデルから理解が大きく広がっている領域です。
【14|小脳テント|CSFそのものより「硬膜・静脈洞」との関係が重要】
ここからはCSFの直接的な通路ではなく、
CSF動態を全身から考える際に知っておきたい周辺構造
を見ていきます。
まず、
小脳テント
です。
小脳テントは、
硬膜によって形成される膜状構造
です。
大脳後頭葉と小脳の間に位置し、頭蓋内を区画しています。
また小脳テント周辺には、
直静脈洞
横静脈洞
上錐体静脈洞
などの硬膜静脈洞があります。
つまり小脳テントを見る場合、
CSFの直接的な通路
としてではなく、
硬膜・頭蓋内静脈系との位置関係
から理解することが重要です。
「小脳テントが硬いからCSFが止まる」と断定することはできません。
【15|矢状縫合|その内側には上矢状静脈洞がある】
頭蓋仙骨療法などでは、
矢状縫合
も注目されます。
ここでも重要なのは解剖学です。
矢状縫合そのものの中をCSFが流れているわけではありません。
しかし矢状縫合の内側には硬膜があり、正中には、
上矢状静脈洞
が走行しています。
そして上矢状静脈洞周辺には、
くも膜顆粒
があります。
つまり、
矢状縫合
↓
硬膜
↓
上矢状静脈洞
↓
くも膜顆粒
という位置関係があります。
だからこそ頭蓋骨・硬膜・静脈系・CSF排出を考える際には、位置関係として知っておきたいポイントです。
ただし、
矢状縫合の可動性低下=CSF吸収障害
と判断することはできません。
【16|実は「呼吸」も脳脊髄液を動かしている】
CSFというと、
頭蓋内だけの話
だと思われがちです。
しかしCSFの動きを調べると、
心拍
だけでなく、
呼吸
も重要な要素であることが分かっています。
呼吸すると、
胸腔内圧
が変化します。
それに伴って、
静脈還流
頭蓋内・脊柱管内の圧関係
なども変化します。
そしてCSFにも呼吸と同期した頭尾方向の動きが生じます。
ここで大切なのは、
CSFは単純に頭から仙骨へ一方向に流れ続けているわけではない
ということです。
実際のCSFには、
心拍・呼吸などに伴う拍動性・往復性の動き
があります。
【17|胸郭出口|CSFではなく「静脈還流」から考える】
次に、
胸郭出口
です。
胸郭出口そのものをCSFが通っているわけではありません。
しかし頭頸部から胸腔方向へ向かう、
静脈還流
を考えると重要な領域です。
頭蓋内の静脈血は、
硬膜静脈洞
から、
内頸静脈
などを介して頭蓋外へ流れます。
その後、
腕頭静脈→上大静脈
へと続きます。
したがって、
頭蓋内静脈系→頸部静脈系→胸腔
という循環を見る場合、頸部から胸郭上部までの解剖を理解する必要があります。
ただし、
胸郭出口が硬い=CSFが止まる
ということではありません。
あくまで、
CSF圧・静脈系・頭頸部循環を考える際の周辺構造
として捉えます。
【18|横隔膜|呼吸とCSF動態をつなぐ重要な筋肉】
呼吸の中心となる筋肉が、
横隔膜
です。
横隔膜が収縮すると下降し、胸腔容積が増加します。
これに伴って、
胸腔内圧
腹腔内圧
静脈還流
などが変化します。
そして呼吸に伴う圧変化は、
脊柱管内・頭蓋内のCSF動態
とも関連します。
つまり、
横隔膜
↓
呼吸
↓
胸腔・腹腔の圧変化
↓
静脈系・脊柱管内圧の変化
↓
CSFの拍動性運動
という視点で見ることができます。
ただし、
横隔膜をリリースすればCSFが流れる
と直接的な治療効果として断定することはできません。
横隔膜はCSFの通路ではなく、
CSF動態に関係する呼吸を生み出す主要筋
として重要なのです。
【19|骨盤隔膜|横隔膜と協調して圧を調節する】
横隔膜とセットで見ておきたいのが、
骨盤隔膜
です。
骨盤隔膜は主に、
肛門挙筋
尾骨筋
などによって構成されます。
呼吸時には横隔膜の上下運動に伴い、
腹腔内圧
が変化します。
骨盤底筋群もこの圧変化に対応して活動します。
そのため、
横隔膜と骨盤底筋群は呼吸・腹腔内圧調節の中で協調する
ことが知られています。
一方で、
CSFが骨盤隔膜を通っているわけではありません。
脊髄くも膜下腔・硬膜嚢は仙骨管内のS2付近まで続きますが、その先にCSFが骨盤底へ流れ出るわけではありません。
したがって、
「骨盤隔膜が硬いからCSFが仙骨で止まる」
と説明するのは避けるべきです。
ここでも、
呼吸・圧調節を介した全身的な関係
として考えます。
【20|結局、脳脊髄液を動かしているのは何なのか?】
ここまでを見ると、
「ではCSFを動かしているポンプは何なのか?」
という疑問が出てきます。
実際のCSF動態は、
一つのポンプだけで説明できるものではありません。
重要なのが、
心拍
呼吸
動脈拍動
静脈系の圧変化
頭蓋内圧
脊柱管内の圧変化
などです。
これらが組み合わさって、
CSFの拍動性・往復性の動き
を作っています。
したがって、
脳脊髄液=頭から仙骨へゆっくり一方向に流れる液体
というイメージだけでは、現在のCSF動態を十分に説明できません。
【21|「CSFが滞る場所」と「セラピストが見る場所」を分ける】
今回、最も重要なポイントです。
医学的にCSFの流動障害を考える場合、
モンロー孔
中脳水道
第四脳室出口
大後頭孔・頭蓋頸椎移行部
など、実際のCSF通路が重要になります。
一方、
小脳テント
矢状縫合
胸郭出口
横隔膜
骨盤隔膜
は、
モンロー孔や中脳水道のような、
CSFが直接通過する狭窄ポイントではありません。
ここを同じ「CSFの詰まり」として扱わないことが重要です。
後者は、
硬膜
静脈還流
呼吸
胸腔・腹腔内圧
などからCSF動態との関連を考える構造です。
この区別ができると、CSFに対する臨床の説明がかなり明確になります。
【まとめ|脳脊髄液は「どこか一つを緩めれば流れる」ものではない】
最後にCSFの全体像を整理します。
まず、
脈絡叢などでCSFが産生される
↓
側脳室
↓
モンロー孔
↓
第三脳室
↓
中脳水道
↓
第四脳室
↓
マジャンディー孔・ルシュカ孔
↓
大槽・くも膜下腔
↓
頭蓋内・脊髄周囲
へとつながります。
そして排出側では、
くも膜顆粒・硬膜静脈洞
に加えて、
篩板周囲・髄膜リンパ系
なども重要です。
さらにCSFは静止しているわけではなく、
心拍・呼吸・血管拍動・静脈系・圧変化
などと関連しながら動いています。
だからこそ、
「○○が硬いから脳脊髄液が止まる」
という一言だけで説明するのではなく、
どこが実際のCSF通路なのか?
どこがCSFの排出経路なのか?
どこが呼吸や静脈系を介して関係する周辺構造なのか?
を分けて考えることが重要です。
脳脊髄液を理解するということは、
単に頭蓋骨を見ることではありません。
脳室・髄膜・静脈・リンパ・頭蓋頸椎移行部・脊柱管・呼吸まで含めた一つの動的なシステムとして理解する。
この視点を持つことで、頭蓋や脳脊髄液に対する臨床の考え方は、さらに深くなると思います。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

























