こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
臨床をしていると、
「腰が痛いから腰をほぐす」
「肩が痛いから肩を緩める」
「膝が痛いから膝周囲を施術する」
というように、どうしても症状が出ている場所へ目が向きやすくなります。
もちろん、痛みのある部位そのものを評価することは重要です。
しかし、身体の動きを見ていくと、
「痛みが出ている場所」と「問題の背景」が一致しない
ケースがあります。
その理由の一つが、
代償動作(compensatory movement)
です。
例えば、
股関節が十分に伸展できないため、腰椎を過剰に伸展して歩く。
胸椎が十分に伸展できないため、上肢挙上時に腰椎伸展で補う。
足関節の背屈が不足しているため、スクワットで足部・膝・股関節の動きを変えてしゃがむ。
このように身体は、
「動かない場所があるから、動作そのものを諦める」
とは限りません。
別の関節や筋肉を使って、何とか目的の動作を達成しようとします。
だからセラピストに必要なのは、
「どこが痛いのか?」だけではなく、
「身体がどこで補っているのか?」を見ること。
今回は、代償動作を見抜くために知っておきたい7つの評価ポイントを、臨床につながる形で解説します。
【①代償動作=悪い動きではない】
まず最初に知ってほしいのが、
代償動作そのものが悪いわけではない
ということです。
例えば足首を捻挫した直後。
痛みのある足へ体重をかけないように、反対側へ重心を移動することがあります。
これは身体からすると、
痛みを避けながら移動するための合理的な戦略
です。
ある関節の可動域が不足していれば、別の関節を使う。
ある筋肉が十分に働かなければ、別の筋肉の活動を増やす。
痛みがあれば、その場所への負荷を避ける。
つまり代償とは、
目的の動作を成立させるために身体が選択した適応戦略
と考えることができます。
問題になるのは、
その代償が必要以上に続いたり、特定部位への負荷増加と関連したりする場合です。
だから、
「代償を見つけた」
↓
「悪い動きだ」
↓
「修正しなければ」
とすぐに考えるのではなく、
「なぜ、この人はこの動きを選択しているのか?」
と考えることが重要です。
【②「動かない場所」と「動きすぎる場所」を分ける】
代償動作を見るうえで非常に重要なのが、
動かない場所と、動きすぎる場所を分けて考える
ことです。
例えば、上肢を挙上するとき。
本来であれば、
肩甲上腕関節。
肩甲胸郭部。
胸椎。
胸郭。
など複数の領域が協調して動きます。
ところが胸椎伸展が十分に得られない場合、
動作を完成させるために、
腰椎伸展など別の動きを増やす
ことがあります。
ここで腰だけを見れば、
「腰が反りすぎている」
という評価になります。
しかし重要なのは、
なぜ腰を反らなければ腕を上げられないのか?
ということです。
もしかすると、
胸椎。
肩甲帯。
肩関節。
など別の領域を評価する必要があるかもしれません。
つまり、
過剰に動いている場所=原因
とは限りません。
セラピストは、
「どこが動きすぎている?」
と同時に、
「その代わりに、どこが動いていない?」
を探す必要があります。
【③痛い場所が“被害者”になっていることがある】
ここが今回の記事で特に伝えたいポイントです。
臨床では、
症状が出ている場所に負担が集中した結果、痛みが出ている
というケースも考えられます。
つまり痛い場所が、
必ずしも最初の問題とは限りません。
例えば、
股関節伸展が不足
↓
歩行時に腰椎伸展で補う
↓
腰部への負荷が増える
というパターン。
この場合、
患者さんが訴えているのは「腰痛」かもしれません。
しかし評価では、
腰だけではなく、
股関節の伸展可動域や歩行パターン
まで確認する必要があります。
ほかにも、
足関節背屈の不足
↓
膝・足部・股関節で動作戦略が変化
胸椎回旋の不足
↓
腰椎や肩甲帯で回旋を補う
肩甲帯の運動不足
↓
上肢挙上時に別の領域の運動が増える
など、さまざまなパターンがあります。
だからこそ、
「痛い場所=悪い場所」
と決めつけない。
むしろ、
「この場所は何を補っているのだろう?」
という視点を持つことが重要です。
【④関節可動域が不足すると隣接部位で補うことがある】
代償動作を理解するときに使いやすいのが、
隣接する関節を見る
という方法です。
人間の動作は、一つの関節だけで行われているわけではありません。
例えばスクワット。
しゃがむためには、
足関節。
膝関節。
股関節。
骨盤。
脊柱。
など複数の領域が協調する必要があります。
仮に足関節背屈が不足していたらどうなるでしょうか?
身体は、
踵を浮かせる。
足部の運動を変える。
膝や股関節の使い方を変える。
体幹の位置を変える。
など、別の方法でしゃがもうとする可能性があります。
重要なのは、
「スクワットフォームが悪い」
で終わらせないことです。
なぜそのフォームになっているのか?
可動域なのか?
筋力なのか?
疼痛回避なのか?
運動経験なのか?
単純に課題のやり方を理解していないのか?
原因によって対応は変わります。
動作を見たら、
その動作を構成している関節へ分解して評価する。
これが重要です。
【⑤筋力だけでなく“タイミングと協調性”を見る】
代償動作というと、
「○○筋が弱いから別の筋肉が頑張っている」
という説明がよく使われます。
もちろん筋力は重要です。
しかし、人間の動きを
「強い・弱い」だけで説明することはできません。
例えば歩行では、
複数の筋肉が、
それぞれ適切なタイミングで活動する必要があります。
必要な筋力があったとしても、
動作の中で適切に使えなければ、別の運動戦略が選択される可能性があります。
つまり見るべきなのは、
筋力
だけではなく、
運動制御
タイミング
協調性
です。
例えば、
「中殿筋が弱い」
という評価だけで終わるのではなく、
片脚支持になった瞬間に骨盤はどう動くのか?
大腿骨はどう動くのか?
体幹はどちらへ移動するのか?
足部では何が起きているのか?
と、
実際の動作の中で見る。
筋肉単体から、
動作全体へ評価を広げる
ことが大切です。
【⑥呼吸にも“代償”がある】
代償動作は、
歩行やスクワットだけではありません。
セラピストにぜひ見てほしいのが、
呼吸です。
呼吸の中心となる筋肉は横隔膜です。
しかし呼吸状態によっては、
胸鎖乳突筋。
斜角筋。
小胸筋など、
呼吸補助筋の活動が増えることがあります。
例えば呼吸のたびに、
肩が大きく上がる。
胸郭上部ばかり動く。
頸部周囲の筋活動が目立つ。
こうした場合、
「首が硬い」
↓
「胸鎖乳突筋を緩める」
だけでは不十分かもしれません。
重要なのは、
なぜ、その筋肉を呼吸に多く使う必要があるのか?
を見ることです。
横隔膜。
下位胸郭。
腹壁。
姿勢。
呼吸パターン。
こうした要素まで評価してみる。
首肩の緊張を見ていたはずが、
呼吸の評価につながる
ことがあります。
これも代償という視点を持つメリットです。
【⑦代償動作は“静止姿勢”だけでは見抜けない】
姿勢評価では、
立位や座位を観察することがあります。
もちろん重要です。
しかし代償動作を見たいなら、
実際に動いてもらう
ことが非常に重要です。
なぜなら、
静止しているときには問題が見えなくても、
動作負荷が加わった瞬間に代償が現れることがあるからです。
例えば、
上肢挙上。
スクワット。
片脚立位。
歩行。
体幹回旋。
立ち上がり。
階段昇降。
などです。
ただし、すべての患者さんへ同じテストをする必要はありません。
腰痛なら、
「どの動作で腰が痛いのか?」
肩痛なら、
「どの方向へ腕を動かすと症状が出るのか?」
まず患者さんが困っている動作を見る。
その中で、
どこが最初に動くのか。
どこが止まっているのか。
どこが過剰に動くのか。
左右で違いはあるのか。
症状はどのタイミングで出るのか。
を観察します。
代償動作は、動作の中に現れる。
この視点が重要です。
【代償動作を見るなら“運動連鎖”を考える】
ここまでをつなげると、
代償動作を評価するうえで重要なのが、
運動連鎖(kinetic chain)
です。
例えば歩行なら、
足部
↓
足関節
↓
膝関節
↓
股関節
↓
骨盤
↓
脊柱
↓
胸郭
↓
肩甲帯
↓
頸部
と、全身が連続して動きます。
一つの場所だけが完全に独立して動いているわけではありません。
だから、
膝が痛いから膝だけ。
腰が痛いから腰だけ。
肩が痛いから肩だけ。
ではなく、
症状が出る動作全体を見る。
そのうえで、
「どこから動作が崩れているのか?」
を探していきます。
ただし、
運動連鎖=離れた場所が必ず症状の原因
という意味ではありません。
全身を見ることと、
何でも全身のせいにすることは別です。
あくまで、
仮説を広げるための視点
として利用することが大切です。
【セラピストが代償動作を見抜く5ステップ】
では実際の臨床では、
どう評価すればいいのでしょうか?
僕なら、次の順番で考えます。
①まず「目的動作」を見る
最初に、
患者さんが困っている動作
を確認します。
歩くと痛いのか?
腕を上げると痛いのか?
しゃがむと痛いのか?
立ち上がると痛いのか?
まず動作そのものを見ます。
②動きが不足している場所を探す
次に、
どこが十分に動いていないのか?
を見ます。
関節可動域。
胸郭。
骨盤。
肩甲帯。
足部。
など、動作を構成する各領域を評価します。
③過剰に動いている場所を探す
そして、
どこが代わりに動いているのか?
を確認します。
この「動かない場所」と「動きすぎる場所」の組み合わせが重要です。
④局所評価で仮説を確認する
動作観察だけで原因を決めません。
可動域。
筋力。
疼痛。
神経学的所見。
運動制御。
必要に応じて各種テストを行い、
最初に立てた仮説が本当に妥当なのか
を確認します。
⑤介入後に同じ動作を再評価する
施術したら終わりではありません。
最初に見た動作を、
もう一度やってもらいます。
動作は変わったか?
症状は変わったか?
代償は減ったか?
別の代償が出ていないか?
ここまで行うことで、
評価と施術がつながります。
【「代償している場所=施術する場所」ではない】
ここは非常に重要です。
例えば、
上肢挙上時に腰椎伸展が大きかった。
だから、
「腰を緩めればいい」
とは限りません。
腰椎伸展は、
別の場所の不足を補っている可能性があります。
もし、その代償だけを無理に抑えたら、
患者さんは動作そのものを行いにくくなるかもしれません。
つまり代償動作は、
身体が問題を解決しようとした結果
でもあります。
だから臨床では、
「代償を消す」
のではなく、
「代償する必要がある状態を減らす」
という発想が重要です。
そのためには、
代償している場所ではなく、
代償を必要としている背景
を探す必要があります。
【「硬い筋肉」が原因とは限らない】
これも筋膜リリースや整体を行うセラピストには重要です。
触診すると、
硬い筋肉。
張っている筋肉。
圧痛のある筋肉。
が見つかることがあります。
すると、
「ここが悪いから硬い」
と考えたくなります。
しかし、その筋肉は、
身体を安定させるために働き続けた結果として緊張しているのかもしれません。
つまり、
硬さ=原因
とは限りません。
場合によっては、
硬さ=代償した結果
という可能性もあります。
だから、
硬い場所を見つけたら、
「どうやって緩める?」
の前に、
「なぜ、この筋肉は頑張らなければならなかった?」
と考えてみてください。
この問いだけでも、
施術の見方はかなり変わります。
【代償動作を“原因”と断定しない】
最後に、もう一つ重要なポイントです。
動作分析で代償を見つけても、
それだけで
「これが痛みの原因です」
と断定することはできません。
痛みは、
組織の状態。
負荷量。
睡眠。
ストレス。
心理社会的要因。
過去の経験。
身体活動量。
など、さまざまな要因から影響を受けます。
さらに、
ある人では問題になっている動作パターンが、
別の人では無症状で存在していることもあります。
だから代償動作は、
診断名ではありません。
「代償があるから悪い」
ではなく、
患者さんの症状・機能・動作との関連性を確認する。
この姿勢が大切です。
【まとめ|痛い場所より「なぜそこに負担が集まったのか?」を見る】
今回は、
セラピストが知っておきたい代償動作の見抜き方
について解説しました。
重要なのは、
・代償動作は身体の適応戦略でもある
・動かない場所と動きすぎる場所を分ける
・痛い場所が負担を受けた側の場合もある
・隣接関節の可動域を見る
・筋力だけでなく運動制御や協調性を見る
・呼吸にも代償的な運動戦略がある
・静止姿勢だけでなく実際の動作を見る
ということです。
そして、臨床で最も大切にしたいのが、
「痛い場所=原因」と決めつけないこと。
腰が痛い。
では、
腰が悪いのか?
それとも、
腰が何かを補っているのか?
肩が痛い。
では、
肩だけの問題なのか?
それとも、
胸郭や肩甲帯などとの協調に別の要因があるのか?
膝が痛い。
では、
膝だけを見るのか?
それとも、
足部・足関節・股関節まで評価するのか?
このように考えていきます。
症状の場所だけを見るのではなく、
「なぜ、そこに負担が集まったのか?」
を見る。
そして、
「どこを緩めるか?」ではなく、
「なぜその動きが必要になっているのか?」
を考える。
代償動作を理解すると、
施術する場所を探すだけの評価から、
患者さんの身体がどんな戦略で動いているのかを読み解く評価
へ変わっていきます。
これが、代償動作を臨床で学ぶ一番大きな意味だと思います。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也






















