こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
内臓整体やオステオパシーでは、
「肝臓をリリースする」
「肝臓の可動性を見る」
「右季肋部の緊張を評価する」
といった考え方があります。
しかし、肝臓を単純に
「右上腹部にある大きな臓器」
としてだけ見てしまうと、解剖学的に重要な部分をかなり見落としてしまいます。
肝臓は、
・横隔膜
・腹膜
・冠状間膜、三角間膜
・下大静脈
・門脈
・肝動脈
・胆嚢
・十二指腸
・右腎
など、さまざまな構造と密接な位置関係を持っています。
つまり肝臓へのアプローチを考えるなら、
「肝臓のどこを押すか?」より、「肝臓は何とつながっているのか?」
を理解することが重要です。
今回は、セラピストが肝臓リリースを考える前に知っておきたい7つの解剖学的ポイントを解説していきます。
【①肝臓は右季肋部だけにあるわけではない】
まず肝臓の位置から整理していきます。
肝臓は主に右上腹部に存在しますが、
右季肋部だけに収まっている臓器ではありません。
右葉は大きく右季肋部を占め、左葉は心窩部を越えて左方向へ伸びています。
そのため、
「肝臓=右のお腹」
とだけ覚えてしまうと、立体的な位置関係が見えにくくなります。
さらに肝臓の上面は横隔膜の下面に沿うような形をしており、
胸郭の内側にかなり入り込んでいる
ことも重要です。
肝臓を触診・評価するときは、
腹部だけではなく、
下位肋骨や横隔膜との位置関係
までイメージしておく必要があります。
【②肝臓のすぐ上には“横隔膜”がある】
肝臓の解剖で特に重要なのが、
横隔膜との関係です。
肝臓の横隔面は、横隔膜の下面と広く接しています。
そして呼吸によって横隔膜が動くと、
肝臓もそれに伴って上下方向へ移動します。
つまり肝臓は、
完全に固定された臓器ではありません。
呼吸運動に伴って位置が変化する臓器
として見る必要があります。
ここから考えると、
肝臓の可動性を評価するとき、
右季肋部だけを見るのではなく、
横隔膜の動き
下位肋骨の拡張
呼吸の左右差
なども重要になります。
肝臓へのアプローチを考えるなら、
肝臓+横隔膜
をセットで見る。
これは非常に重要な視点です。
【③肝臓は“靱帯”によって周囲と連続している】
肝臓には、
いくつか特徴的な腹膜の折り返しがあります。
代表的なのが、
鎌状間膜
冠状間膜
右三角間膜
左三角間膜
などです。
鎌状間膜は、肝臓前面から前腹壁・横隔膜方向へ連続します。
冠状間膜は肝臓上面と横隔膜との境界に関係し、その左右端では三角間膜へ移行します。
ここで注意したいのが、
これらは膝の靱帯のような「強固な線維性靱帯」とは少し意味が違うことです。
肝臓周囲でいう靱帯の多くは、
腹膜の二重層・反転によって形成された構造
です。
つまり肝臓を見るなら、
臓器そのものだけではなく、
腹膜を介してどこへ連続しているのか
を見ることが大切です。
【④肝臓には“腹膜に覆われていない場所”がある】
肝臓の大部分は腹膜に覆われています。
しかし、一部には腹膜に覆われていない領域があります。
それが、
無漿膜野(bare area)
です。
無漿膜野は肝臓後上面に存在し、
横隔膜と肝臓が直接結合組織を介して接する領域です。
その周囲を形成するのが冠状間膜です。
ここが面白いところです。
肝臓を、
「腹膜に包まれた臓器」
としてだけ見るのではなく、
横隔膜とより直接的に関係する領域もある
ということです。
そのため肝臓と横隔膜の関係を考えるときには、
無漿膜野までイメージできると解剖の理解が一段深くなります。
【⑤肝臓の後ろには“下大静脈”が走っている】
肝臓への徒手アプローチを考えるうえで、
非常に重要なのが血管です。
特に注目したいのが、
下大静脈(IVC)
です。
下大静脈は肝臓後面に非常に近接して走行し、
肝静脈はここへ流入します。
つまり肝臓後方は、
単なる「肝臓の裏側」ではありません。
全身の静脈血が心臓へ戻る非常に重要な血管領域
でもあります。
さらに肝臓には、
門脈
固有肝動脈
胆管
が肝門部で出入りします。
いわゆる門脈三つ組として理解される構造です。
肝臓を徒手的に扱うセラピストほど、
「臓器を押す」
という感覚ではなく、
その周囲に大血管や胆道系が存在する
という解剖を頭に入れておく必要があります。
【⑥肝臓の下面は“内臓だらけ”】
肝臓下面を見ると、
肝臓が単独で存在していないことがよく分かります。
肝臓の臓側面は、
胃
十二指腸
右腎
右副腎
結腸
胆嚢
などと位置的に関係しています。
つまり、
右上腹部に緊張や圧痛があるからといって、
それをすぐに
「肝臓の問題」
と判断することはできません。
周囲には複数の臓器が存在します。
特に、
肝臓下面には胆嚢があり、
十二指腸や結腸も近接します。
そのためセラピストが右季肋部を評価するときには、
肝臓という一つの臓器だけを頭の中に置かないこと
が大切です。
「この深さには何があるのか?」
「この方向にはどの臓器があるのか?」
という立体的な解剖が重要になります。
【⑦肝臓は自律神経・横隔膜周囲の神経とも関係する】
肝臓には、
肝神経叢
を介して自律神経線維が分布します。
交感神経線維は主に腹腔神経叢を介し、
副交感神経線維には迷走神経が関与します。
一方で、
肝臓周囲の腹膜や横隔膜の知覚を考える場合には、
横隔神経
との関係も重要になります。
特に横隔膜中央部の知覚には横隔神経が関与します。
そのため肝臓周囲を考えるときには、
「肝臓そのものの自律神経支配」
と、
「横隔膜・腹膜など周囲組織の知覚神経」
を分けて理解することが大切です。
神経をすべて一括して
「迷走神経が肝臓を支配している」
と覚えるのではなく、
どの組織にどの神経が関与するのかを整理しましょう。
【肝臓を見るなら“呼吸”を見る】
ここまでを整理すると、
肝臓への評価で非常に重要なことが見えてきます。
それが、
呼吸です。
肝臓上面には横隔膜があります。
横隔膜は呼吸によって上下します。
その動きに伴って肝臓も移動します。
だから、
肝臓の可動性を考えるなら、
肝臓だけを直接評価するより、
横隔膜は動いているか?
右下位肋骨は広がっているか?
左右差はあるか?
腹壁は過剰に緊張していないか?
という視点が重要になります。
肝臓が動かないように感じたとしても、
その背景が必ずしも肝臓そのものにあるとは限りません。
横隔膜。
胸郭。
腹壁。
周囲の腹膜。
こうした構造まで含めて考える必要があります。
【肝臓リリース=肝臓を強く押すことではない】
内臓アプローチで注意したいのが、
「硬い臓器を押して柔らかくする」
という考え方です。
肝臓は非常に血流の豊富な臓器です。
また周囲には、
下大静脈、門脈、肝動脈、胆道系など重要な構造があります。
そのため、
強い圧をかければ効果が高くなる
という考え方は適切ではありません。
セラピストが見るべきなのは、
強さではなく、
位置
呼吸性移動
周囲組織との関係
圧痛
左右差
患者さんの症状や病歴
です。
さらに、内臓マニピュレーション自体については、筋骨格症状などへの効果を示唆する小規模研究はあるものの、エビデンスはまだ限定的です。
したがって、
「肝臓リリースで肝機能が改善する」
「肝臓を触れば解毒機能が上がる」
といった説明は避けるべきです。
徒手療法として扱うなら、
周囲組織の可動性や身体機能を評価する一つの手段
として位置づけるのが適切です。
【肝臓リリース前に評価したいポイント】
肝臓周囲へアプローチするときには、
いきなり肝臓を触るのではなく、
まず全体を評価します。
例えば、
①右下位肋骨の動き
吸気・呼気で左右差がないか。
②横隔膜の動き
呼吸が浅くないか。
③右季肋部の圧痛
強い痛みや防御性収縮がないか。
④腹壁の緊張
腹直筋・腹斜筋など表層組織の影響はないか。
⑤周囲臓器との位置関係
胆嚢・十二指腸・結腸・右腎などを意識できているか。
⑥既往歴・手術歴・医学的所見
肝胆道系疾患や腹部手術歴がないか。
重要なのは、
「肝臓をリリースする」ことから評価を始めないこと。
まず、
なぜ右上腹部に緊張や可動性の違いがあるのか?
を考えることです。
【肝臓へ触れる前に知っておきたい注意点】
腹部、とくに肝胆道系周囲への施術では、
触らない判断
も非常に重要です。
例えば、
・原因不明の強い右上腹部痛
・急激な腹痛
・発熱
・黄疸
・繰り返す嘔吐
・腹部膨満の急激な増悪
・消化管出血が疑われる状態
・強い圧痛や腹膜刺激を疑う状態
・意識状態の変化
などがある場合には、
徒手療法より医学的評価を優先します。
既知の肝疾患、胆石・胆嚢炎、肝硬変、腹水、肝腫瘍、術後などの場合も、
病態を把握せずに腹部へ強い徒手刺激を加えるべきではありません。
セラピストに必要なのは、
「どこを触るか」だけではなく、
「いつ触らないか」を判断する知識
です。
【まとめ|肝臓は“臓器単体”ではなく周囲との関係を見る】
今回は、
肝臓リリースを考える前に知っておきたい解剖学
について解説しました。
重要なのは、
・肝臓は右季肋部だけにあるわけではない
・肝臓上面は横隔膜と密接に関係する
・鎌状間膜や冠状間膜などの腹膜構造がある
・無漿膜野では横隔膜とより直接的に関係する
・肝臓後方には下大静脈がある
・下面には胆嚢・十二指腸・右腎などが近接する
・自律神経と周囲の体性知覚を分けて考える
ということです。
肝臓リリースという言葉だけを聞くと、
「肝臓を直接緩めるテクニック」
というイメージを持つかもしれません。
しかし解剖学を知ると、
もっと重要なのは、
肝臓が何と接し、何によって支えられ、呼吸とともにどう動いているのか
を見ることだと分かります。
肝臓
↓
横隔膜
↓
胸郭・呼吸
そして、
肝臓
↓
腹膜・靱帯
↓
周囲臓器・血管
というつながりまで見る。
肝臓という「点」ではなく、右上腹部という「立体的な解剖」を評価する。
この視点を持つことで、
肝臓へのアプローチや腹部評価の考え方は大きく変わってくると思います。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

























