こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
セラピストとして施術をしていると、
「老廃物が溜まっていますね」
「リンパを流して老廃物を排出しましょう」
「筋肉が硬いのは老廃物が溜まっているからです」
このような表現を、一度は聞いたことがあると思います。
整体、マッサージ、リンパドレナージュ、エステなどでは、特に**「老廃物を流す」**という言葉がよく使われます。
しかし、ここで一つ疑問があります。
そもそも「老廃物」とは何なのでしょうか?
そして、
老廃物は本当に身体のどこかに“溜まる”のでしょうか?
さらに、
施術によって老廃物を“流す”ことはできるのでしょうか?
実は「老廃物」という言葉は非常に便利な一方で、生理学的にはかなり曖昧な表現です。
セラピストとして患者さんの身体を説明するのであれば、
代謝
↓
細胞
↓
間質液
↓
血液・リンパ
↓
肝臓・腎臓
↓
排泄
という一連の仕組みを理解しておくことが重要です。
今回は、
老廃物とは何か?
↓
代謝産物とは?
↓
乳酸は老廃物なのか?
↓
血液と老廃物
↓
リンパの役割
↓
むくみとの違い
↓
肝臓・腎臓
↓
「老廃物が溜まる」とは?
↓
マッサージで流れる?
↓
セラピストはどう説明する?
という流れで、生理学を中心に整理していきます。
【1|そもそも「老廃物」とは何?】
まず最初に知っておきたいのが、
「老廃物」は特定の一つの物質を指す医学用語ではない
ということです。
一般的には、身体の代謝によって生じ、最終的に体外へ排出されたり、別の経路で処理されたりする物質をまとめて「老廃物」と表現することがあります。
例えば、
- 二酸化炭素
- 尿素
- クレアチニン
- 尿酸
などです。
ただし、これらはすべて同じ方法で排泄されるわけではありません。
例えば二酸化炭素は主に、
血液
↓
肺
↓
呼気
として体外へ排出されます。
一方、尿素やクレアチニンなどは血液によって腎臓へ運ばれ、
血液
↓
腎臓
↓
尿
という経路で排泄されます。
つまり、
「老廃物」という袋の中に全部まとめて考えると、生理学的な仕組みが見えにくくなる
ということです。
【2|老廃物を理解するなら「代謝」から考える】
では、なぜ身体の中にさまざまな代謝産物が生まれるのでしょうか。
その背景にあるのが、
代謝(metabolism)
です。
私たちの身体では、生きている限り細胞内でさまざまな化学反応が行われています。
食事から摂取した糖質・脂質・タンパク質などを利用してエネルギーを作ったり、身体を構成する物質を合成したりしています。
例えば細胞では、ATPを利用しながら、
筋収縮
神経活動
物質輸送
体温維持
組織の合成
などが行われています。
こうした代謝過程では、身体が再利用する物質もあれば、最終的に排出する必要がある物質も生じます。
つまり「老廃物」という言葉を理解するには、
身体は常に物質を作り、使い、変換し、運び、排泄している
という大きな流れから考える必要があります。
【3|「乳酸=老廃物」は正しい?】
ここはセラピストにぜひ知っておいてほしいポイントです。
以前は、
激しい運動
↓
乳酸が溜まる
↓
筋肉が疲労する
という説明が広く使われていました。
その影響から、
「乳酸は疲労物質」
「乳酸は老廃物」
というイメージを持っている人も少なくありません。
しかし現在では、
乳酸を単純な老廃物・疲労物質として扱う考え方は適切ではありません。
解糖系ではグルコースからピルビン酸が生じ、条件によって乳酸へ変換されます。
そして乳酸は血液などを介して移動し、他の組織でエネルギー基質として利用されることがあります。
肝臓では乳酸を材料としてグルコースを再合成する経路にも利用されます。
いわゆる、
コリ回路(Cori cycle)
です。
つまり乳酸は、
「できたら捨てるだけのゴミ」ではない
ということです。
ここを理解するだけでも、患者さんへの説明は大きく変わります。
【4|細胞で生じた物質はどう運ばれる?】
では、細胞周辺で生じた物質はどうなるのでしょうか。
ここで重要になるのが、
間質液
です。
私たちの細胞は、直接血液の中に浮いているわけではありません。
細胞の周囲には間質液が存在し、血液と細胞の間で物質交換が行われています。
大まかには、
毛細血管
⇄
間質液
⇄
細胞
という関係です。
酸素や栄養素などが細胞へ供給される一方で、細胞の代謝によって生じた物質も血液側へ移動します。
さらに、間質側に出た液体やタンパク質などの一部を回収するうえで重要なのが、
リンパ系
です。
つまり身体は、
血液だけ
あるいは
リンパだけ
で処理しているわけではありません。
血液循環とリンパ系がそれぞれ役割を持ちながら、体液環境を維持しています。
【5|「老廃物はリンパで流れる」は正しい?】
ここはセラピスト業界で特に誤解されやすい部分です。
「リンパ=老廃物を流すもの」
というイメージが非常に強いと思います。
もちろんリンパ系には重要な役割があります。
代表的なのが、
組織間液の回収
です。
毛細血管から組織側へ移動した液体のうち、血管側へ戻りきらないものなどがリンパ管へ入り、最終的には静脈系へ戻ります。
またリンパ系は、
免疫機能
や、
小腸で吸収された脂質の輸送
にも重要です。
そのため、
リンパ系=老廃物専用の排水管
という理解では不十分です。
むしろ、
体液バランス・免疫・脂質輸送などを担う重要なシステム
として理解した方が、生理学的には適切です。
【6|リンパ節は「ゴミ箱」ではない】
もう一つよくある表現が、
「リンパ節に老廃物が溜まる」
です。
リンパ節には、
- リンパ球
- マクロファージ
- 樹状細胞
など免疫に関係する細胞が存在し、リンパ液を介して運ばれてきた抗原などに対する免疫応答に関わります。
つまりリンパ節は、
単純に老廃物を溜めるゴミ箱ではありません。
また、
「リンパ節を揉めば、中に溜まった老廃物が押し流される」
というイメージも単純化しすぎています。
セラピストとしてリンパ系を扱うのであれば、
リンパ管
リンパ節
静脈系
間質液
免疫系
まで含めて理解しておくことが大切です。
【7|「老廃物」と「むくみ」は同じではない】
患者さんから、
「老廃物が溜まって脚がむくんでいます」
と言われることもあると思います。
しかし、
老廃物と浮腫(むくみ)は同じものではありません。
浮腫とは、簡単にいえば、
間質に過剰な液体が貯留した状態
です。
その背景には、
毛細血管内の静水圧
血漿タンパク質などに関係する浸透圧
血管透過性
リンパ系による回収
など複数の要素が関係します。
さらに臨床では、
- 静脈系の問題
- リンパ系の問題
- 心機能
- 腎機能
- 肝機能
- 炎症
なども浮腫の背景となり得ます。
したがって、
「むくみ=老廃物が溜まった」
と説明してしまうと、本来考えるべき生理学を見落としてしまいます。
【8|身体の“処理工場”として重要な肝臓】
「老廃物の排出」という話になるとリンパばかり注目されますが、
肝臓
も非常に重要です。
肝臓では、
糖質代謝
脂質代謝
タンパク質・アミノ酸代謝
薬物などの代謝
胆汁の生成
など、多くの機能が行われています。
例えばタンパク質・アミノ酸代謝ではアンモニアが生じます。
アンモニアは毒性が高いため、肝臓では主に尿素回路によって尿素へ変換されます。
そして尿素は、
血液
↓
腎臓
↓
尿
という流れで排泄されます。
つまり、
「老廃物を排出する=リンパを流す」
だけでは、身体の処理システムを説明できません。
【9|腎臓は何をしている?】
そして排泄を考えるうえで欠かせないのが、
腎臓
です。
腎臓では血液が糸球体で濾過され、その後、
再吸収
分泌
などの過程を経て尿が作られます。
腎臓は単なる「老廃物を捨てる臓器」ではありません。
水分量
電解質
酸塩基平衡
血圧調節
など、身体の内部環境を維持するうえで極めて重要な役割を担っています。
例えば尿素やクレアチニンなどは、腎臓を介して尿中へ排泄されます。
つまり、
細胞で生じた物質
↓
血液による輸送
↓
肝臓などでの代謝
↓
腎臓などでの処理・排泄
という全身システムとして理解する必要があります。
【10|では「老廃物が溜まる」とは何なのか?】
ここまで読むと、
「じゃあ老廃物は身体に溜まらないの?」
と思うかもしれません。
ここも0か100かで考えないことが重要です。
身体では常に、
産生
↓
輸送
↓
代謝
↓
排泄
が行われています。
そのため、特定の疾患や臓器機能の低下などによって、通常排泄される物質の血中濃度が上昇することはあります。
例えば腎機能が大きく低下すれば、本来尿へ排泄される物質が血中に蓄積することがあります。
しかしこれは、
「肩の筋肉に老廃物が溜まったから肩こりになった」
という説明とは別の話です。
触診で硬い場所を見つけて、
「ここに老廃物が溜まっています」
と判断することはできません。
この区別は、セラピストとして非常に重要です。
【11|マッサージで「老廃物」は流れる?】
では本題です。
マッサージをすると老廃物は流れるのでしょうか?
ここも言葉を分けて考える必要があります。
マッサージや運動などによって、局所の循環や体液移動に変化が生じる可能性はあります。
また、適切なリンパドレナージュが特定の浮腫管理などに利用されることもあります。
しかし、
「揉めば筋肉に溜まった毒素・老廃物がリンパへ押し出され、そのまま体外へ排出される」
という説明は、生理学的には単純化しすぎています。
そもそも体外へ排泄する中心的な仕組みには、
腎臓・肺・消化管など
が関係します。
セラピストの施術を説明するのであれば、
「老廃物を流します」
だけではなく、
循環
体液移動
筋緊張
関節運動
呼吸
症状・機能
など、実際に評価できる要素へ置き換えて考えた方がよいでしょう。
【12|「水を飲めば老廃物が流れる」は本当?】
施術後によくあるのが、
「老廃物を流すために水をたくさん飲んでください」
という説明です。
もちろん適切な水分摂取は、身体機能を維持するうえで重要です。
腎臓による尿生成にも水分は関係します。
しかし、
施術によって大量の老廃物が血液中へ放出されるから、それを排泄するために大量の水を飲まなければならない
と説明するのは慎重になるべきです。
必要以上に、
「施術後は毒素が出る」
というイメージを患者さんへ与えないことも大切です。
【13|筋肉が硬い=老廃物が溜まっている?】
では、触診で感じる、
「筋肉の硬さ」
は何なのでしょうか。
筋の硬さには、
筋活動
筋緊張
筋・腱の力学的特性
結合組織
関節肢位
疼痛に対する防御反応
神経系による運動制御
など、さまざまな要素が関係します。
つまり、
筋肉が硬い
↓
血流が悪い
↓
老廃物が溜まる
↓
さらに硬くなる
という一つのストーリーだけで、すべての筋緊張を説明することはできません。
「硬い」という触診所見があったら、
なぜ、その組織が硬く感じるのか?
まで考えることが重要です。
【14|セラピストは患者さんにどう説明する?】
では実際に患者さんから、
「老廃物が溜まっているんですか?」
と聞かれたら、どう説明すればよいのでしょうか。
例えば、
「一般的に老廃物と呼ばれているものにもいろいろあります。身体で生じた代謝産物は、血液やリンパなどを介して運ばれ、肺・肝臓・腎臓などが関わりながら処理・排泄されています。なので、“ここに老廃物が溜まっている”と単純に考えるより、筋肉の緊張や循環、むくみ、関節の動きなどを分けて評価した方が身体の状態を正確に捉えやすいですよ」
と説明すると、かなり生理学に沿った内容になります。
専門用語を並べる必要はありません。
重要なのは、
分かりやすくするために、間違った説明をしないこと
です。
【15|「老廃物」という言葉を使うなら何を見る?】
臨床では「老廃物」という曖昧な言葉で終わらせず、実際に何が起きているのかを分解して考えます。
例えば、
むくんでいるなら、
浮腫・静脈還流・リンパ系・全身状態
を考える。
筋肉が硬いなら、
筋活動・関節運動・疼痛・運動制御
を見る。
運動後に疲労しているなら、
エネルギー代謝・筋機能・回復
を考える。
局所の循環が気になるなら、
血管・筋活動・姿勢・運動
などを評価する。
つまり、
「老廃物が溜まっています」
という一言で終わらせず、
その患者さんの身体で実際に何が起きているのか?
へ一段深く入っていくことが、セラピストには必要だと思います。
【まとめ|「老廃物を流す」を一度、生理学から考え直す】
今回は、
「老廃物とは何なのか?」
を血液・リンパ・代謝という視点から整理しました。
身体では常に代謝が行われ、さまざまな物質が作られています。
それらは、
細胞
↓
間質液
↓
血液・リンパ
↓
肝臓・腎臓・肺など
↓
代謝・再利用・排泄
という複雑なシステムの中で扱われています。
そのため、
「老廃物はリンパに流せば全部排出される」
という単純な仕組みではありません。
そして、セラピストとして特に覚えておきたいのは、
乳酸=単なる老廃物ではない
リンパ節=老廃物を溜めるゴミ箱ではない
むくみ=老廃物ではない
筋肉の硬さ=老廃物の蓄積とは限らない
施術=老廃物を押し流す、と単純には説明できない
ということです。
「老廃物」という言葉は、患者さんにとって非常に分かりやすい言葉です。
だからこそセラピスト側は、その言葉の裏側にある、
代謝
+
循環
+
リンパ
+
間質液
+
肝臓
+
腎臓
+
肺
まで理解しておく。
そして、
「老廃物を流す施術」から、「身体で何が起きているのかを生理学から評価する施術」へ。
この視点を持つことで、患者さんへの説明も、評価も、施術の考え方も一段深くなると思います。
次に患者さんから、
「ここに老廃物が溜まっているんですか?」
と聞かれたときは、
ぜひ一度、
「そもそも老廃物って何だろう?」
というところから考えてみてください。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

























