こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
内臓というと、
「お腹の中の決まった場所に固定されている」
というイメージを持っていないでしょうか?
しかし実際の内臓は、完全に固定された構造物ではありません。
例えば呼吸をすると横隔膜が上下します。
横隔膜の直下には肝臓があり、その周囲には胃・脾臓・腎臓・腸管などが存在します。
さらに消化管では蠕動運動が起こり、心臓は拍動し、血管には脈動があります。
つまり身体の中では、常にさまざまな**「動き」**が起こっています。
そして、オステオパシーや内臓マニピュレーションでは、内臓の動きを考える際に、
移動力
可動力(Mobility)
自動力(Motility)
といった概念が使われることがあります。
ただし、この3つは同じ「動き」ではありません。
また、流派や文献によって日本語訳・定義に違いがあり、特にMotilityは現代解剖学・生理学で確立された「臓器固有の触診可能なリズム」というより、内臓マニピュレーションで用いられてきた評価概念として区別して考える必要があります。
今回は、
「そもそも内臓はなぜ動くのか?」
というところから、解剖学・生理学を中心に詳しく解説していきます。
1|そもそも内臓は本当に動いている?
結論からいうと、内臓には実際にさまざまな動きがあります。
ただし、
「内臓が自由にお腹の中を移動している」
という意味ではありません。
内臓の多くは、
腹膜
間膜
靱帯
血管
周囲臓器
結合組織
などによって支持されています。
そのため一定の位置関係を保ちながら、その範囲内で動いています。
代表的な動きとして考えやすいのが、
呼吸による動き
消化管の蠕動
心拍・血管拍動に伴う動き
体位変化による位置変化
身体運動に伴う変位
などです。
例えば深く息を吸うと横隔膜が尾側へ移動します。
それに伴って、横隔膜直下の腹部臓器にも位置変化が生じます。
つまり、
内臓は「固定されながら動く」
というイメージを持つと理解しやすくなります。
2|内臓の動きを理解する前に「腹膜」を知る
内臓の動きを理解するうえで重要なのが**腹膜(peritoneum)**です。
腹膜は腹腔内を覆う漿膜で、
壁側腹膜
臓側腹膜
に分けられます。
壁側腹膜は腹壁側を覆い、臓側腹膜は臓器表面を覆います。
さらに腹膜は、
腸間膜
大網
小網
腹膜ヒダ
などの構造を形成します。
これらは単なる「臓器を包む袋」ではありません。
血管・リンパ管・神経などが臓器へ向かう経路にもなっています。
また、腹膜表面は漿液によって滑らかになっているため、隣接する臓器同士がある程度滑走できます。
つまり内臓の動きを考えるときには、
臓器単体を見るのではなく、腹膜や間膜を含めた周囲構造との関係を見る
ことが重要です。
3|内臓の「移動力」とは?
まず理解しやすいのが移動力です。
ここでは、
身体全体の動きや外力によって内臓の位置が変化すること
として考えてみましょう。
例えば、
立位 → 仰向け
になれば、重力方向が変化します。
身体を前屈・回旋すれば、胸郭・腹壁・横隔膜・骨盤との位置関係も変化します。
さらに、
歩行
ジャンプ
寝返り
姿勢変化
などでも内臓には力が加わります。
ただし内臓は好き勝手に移動するわけではありません。
例えば肝臓なら、
横隔膜
下大静脈
肝静脈
冠状間膜
三角間膜
などとの解剖学的関係があります。
胃なら、
食道
十二指腸
小網
大網
胃脾間膜
胃横隔間膜
など周囲とのつながりがあります。
そのため「移動」といっても、
支持構造を保ちながら一定範囲で位置を変える
と考えるのが自然です。
4|内臓の「可動力(Mobility)」とは?
内臓マニピュレーションでよく登場するのが、
Mobility(モビリティ)
です。
一般的には、
呼吸・姿勢変化・身体運動など、外部または周囲構造からの力に伴って生じる臓器の動き
という意味で説明されます。
特に重要なのが呼吸です。
息を吸う
↓
横隔膜が尾側へ移動する
↓
腹腔内圧や臓器間の位置関係が変化する
↓
腹部臓器もそれに伴って変位する
という流れです。
つまりMobilityを考えるとき、
横隔膜との位置関係
が非常に重要になります。
5|横隔膜が動くと内臓も動く
横隔膜は胸腔と腹腔を隔てるドーム状の筋です。
その直下には、
肝臓
胃
脾臓
などが位置します。
さらに後方では腎臓も横隔膜と近接しています。
吸気時には横隔膜が収縮して尾側へ移動します。
その結果、腹腔内容物にも力が伝わります。
ここで重要なのは、
内臓の呼吸性移動はすべて同じ方向・同じ量ではない
ということです。
臓器によって、
形状
固定部位
周囲臓器
腹膜との関係
血管との連結
が違うからです。
例えば肝臓は横隔膜直下に広い面積で接しているため、呼吸に伴う変位が比較的イメージしやすい臓器です。
MRIや超音波などでも、呼吸に伴う腹部臓器の位置変化を観察できます。
6|肝臓は呼吸でどう動く?
肝臓は右上腹部を中心に存在する大きな臓器です。
上面は横隔膜と密接しています。
そのため呼吸運動の影響を受けます。
吸気によって横隔膜が尾側へ移動すると、肝臓もそれに伴って尾側方向へ変位します。
呼気では逆方向へ戻ります。
ただし、
「肝臓が単純に上下するだけ」
ではありません。
肝臓には、
下大静脈
肝静脈
肝門部
冠状間膜
三角間膜
など複数の固定・支持要素があります。
そのため実際の動きは、三次元的な変位として考える必要があります。
セラピストが内臓を見る場合にも、
臓器の動きを一方向だけで考えない
という視点が重要です。
7|腎臓も呼吸で移動する?
腎臓は後腹膜臓器です。
腹膜腔内にぶら下がっている臓器ではなく、腹膜より後方に位置します。
しかし、
「後腹膜臓器=動かない」
というわけではありません。
腎臓も呼吸に伴って位置が変化します。
腎臓の周囲には、
腎筋膜
腎周囲脂肪
腎血管
尿管
横隔膜
大腰筋
腰方形筋
などがあります。
特に右腎は肝臓との位置関係もあります。
このように見ると、腎臓の動きを考える際にも、
腎臓単体ではなく、横隔膜・後腹膜・周囲筋・血管まで含めた立体解剖
が必要になります。
8|胃・小腸は「呼吸」以外でも動いている
胃や小腸には、横隔膜や身体運動による受動的な変位とは別に、
消化管そのものの運動
があります。
代表的なのが、
蠕動運動(peristalsis)
です。
消化管壁には、
粘膜
粘膜下層
筋層
漿膜
などがあります。
筋層には主に平滑筋が存在し、その収縮によって内容物を移動させます。
さらに消化管には、
腸管神経系(ENS)
が存在します。
代表的なのが、
筋間神経叢
粘膜下神経叢
です。
自律神経系からの調節も受けながら、消化管は独自の神経回路によって運動を調節しています。
ここで大切なのは、
蠕動運動とMobilityは同じではない
ということです。
蠕動は消化管壁の平滑筋による生理的運動。
Mobilityは内臓マニピュレーションの文脈では、呼吸などに伴う臓器全体の動きを指して使われます。
この2つを分けると、内臓の「動き」が整理しやすくなります。
9|では「自動力(Motility)」とは何なのか?
ここが今回の記事で最も誤解されやすいところです。
内臓マニピュレーションでは、
Motility(モティリティ/自動力)
という概念があります。
この考え方では、呼吸や姿勢変化などによって受動的に動かされるMobilityとは別に、
臓器自身にみられる固有の微細な運動
としてMotilityを評価します。
流派によっては、臓器が身体の正中方向へ向かう動きと、そこから離れる方向への動きを一定のリズムとして触診する考え方があります。
ただし、ここは生理学的な運動と分けて理解する必要があります。
現代医学では、
心臓の拍動
血管の脈動
消化管の蠕動
呼吸性臓器移動
などは測定・観察できます。
一方、
内臓マニピュレーションで説明されるMotilityが、独立した臓器固有の一定リズムとして触診できる
という考えについては、同じレベルで確立された生理学的現象とは言い切れません。
そのため臨床では、
「内臓マニピュレーションで用いられる評価モデル」
として理解しておくと整理しやすいでしょう。
10|移動力・可動力・自動力を整理すると?
ここまでを整理してみましょう。
移動力
身体運動・姿勢・重力・外力などに伴って、臓器の位置が変化すること。
可動力(Mobility)
内臓マニピュレーションでは主に、呼吸など周囲構造の運動に伴って生じる臓器の動きとして扱われます。
自動力(Motility)
内臓マニピュレーションで、臓器固有の微細な運動として評価される概念。
そして、これとは別に生理学的に確認される運動として、
蠕動
心拍
血管拍動
呼吸性移動
などがあります。
つまり、
「内臓が動く」と言っても、何によって起こる動きなのかを分けることが重要
なのです。
11|内臓はどうやって「固定」と「可動」を両立している?
ここが解剖学的に非常に面白いところです。
内臓は、
動かなければいけない
一方で、
動きすぎてもいけません。
そこで重要になるのが支持構造です。
例えば胃には、
胃横隔間膜
胃脾間膜
胃結腸間膜
小網
などがあります。
小腸には腸間膜があります。
肝臓には、
冠状間膜
三角間膜
小網
などがあります。
腎臓には、
腎筋膜
腎周囲脂肪
血管系
などが位置保持に関係します。
つまり内臓は、
完全固定でも、完全自由でもない
ということです。
一定の支持を受けながら、呼吸や身体運動に合わせて変位できる。
この、
安定性 × 可動性
の両立が重要になります。
これは関節を考えるときの、
Mobility × Stability
にも少し似ています。
12|内臓整体では「動き」をどう評価する?
内臓マニピュレーションや内臓整体では、臓器周囲へ手を当て、
呼吸に伴う動き
周囲組織との滑走
左右差
方向による抵抗感
圧に対する組織反応
などを触診する方法があります。
例えば肝臓なら、
吸気
↓
横隔膜下降
↓
肝臓の位置変化
という解剖学的な背景をイメージしながら触診します。
ここで重要なのは、
「触ったら肝臓が3cm下がっていなかったから異常」
のように単純化しないことです。
体格、呼吸量、姿勢、腹壁緊張、食事、個体差などによっても触診所見は変化します。
また、手で感じる抵抗感が、
臓器そのもの
腹壁
筋膜
腹膜
周囲組織
のどこに由来しているのかを完全に分離することも簡単ではありません。
そのため、
触診=診断
ではなく、
仮説を作るための評価の一つ
として利用すると臨床につながります。
【まとめ|内臓は「固定された臓器」ではない】
内臓は、お腹の中に静止している構造ではありません。
身体の中では常に、
呼吸
蠕動
心拍
血管拍動
姿勢変化
身体運動
などが起こっています。
そして内臓は、
腹膜
間膜
靱帯
血管
結合組織
周囲臓器
などに支持されながら、その範囲内で動いています。
内臓整体・内臓マニピュレーションでは、こうした動きを理解するために、
移動力
可動力(Mobility)
自動力(Motility)
という考え方があります。
ただ大切なのは、3つの言葉を暗記することではありません。
「その動きは、何によって生まれているのか?」
まで考えることです。
横隔膜によるものなのか。
体位変化によるものなのか。
蠕動なのか。
周囲組織との滑走なのか。
それとも内臓マニピュレーションでMotilityと表現される評価概念なのか。
ここを分けて考えられるようになると、内臓に対する評価も一段深くなります。
そして施術では、
内臓だけを見るのではなく、横隔膜・腹膜・胸郭・骨盤・後腹膜・姿勢・呼吸までつなげて評価する。
これが内臓アプローチを解剖学から考えるうえで非常に重要な視点です。
詳しい内臓の位置関係や、呼吸に伴う動きについてはYouTubeでも図解を使って解説していきますので、ぜひ動画とあわせて学んでみてください。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

























