皆さん、こんにちは。
ALLアプローチ協会 代表の山口拓也です。
今回は、「浅筋膜と深筋膜の違い」について、セラピスト向けに臨床目線で解説していきます。
筋膜リリースを行っている方でも、 浅筋膜と深筋膜の役割や評価方法を正しく理解できている方は多くありません。
この記事では、 筋膜の基礎知識から臨床での評価・施術への活かし方まで解説しておりますので最後まで読んでいただけると幸いです。
そもそも筋膜リリースとは?
筋膜リリースは、1960〜1980年代頃から欧米を中心に発展した徒手療法です。
当初は、「筋膜の硬さや癒着が痛みや可動域制限の原因になる」という考え方から、筋膜の柔軟性や組織間の滑走性を改善することを目的として行われてきました。
「筋膜リリース=癒着を剥がす」は本当?
筋膜リリースというと、「癒着を剥がす施術」というイメージを持つ方も多いかと思います。
しかし現在では、筋膜リリースによる変化は一つの要因ではなく、複数の要因が関わっていると考えられています。
例えば、
①脳・神経系による運動出力の変化
痛みや防御反応が軽減し、筋肉が動かしやすくなる。
可動域がその場で変わる現象は、この影響が大きい。
②筋緊張や防御性収縮の変化
必要以上に力が入っていた筋肉がリラックスし、動きやすくなる。
③組織間の滑走性の改善
特に浅筋膜や皮下組織では、滑走性が改善する可能性があります。
ただし、「強固な癒着が数分で物理的に剥がれる」という意味とは区別して考える必要あり。
などです。
つまり、「癒着が剥がれる」ことも筋膜リリースの一つの作用として考えられますが、それだけで施術効果を説明することは難しいというのが現在の考え方です。
【筋膜とは?】
「筋膜」と聞くと、多くの方は筋肉を包む膜をイメージするでしょう。
しかし実際には、筋膜は筋肉だけでなく、骨・神経・血管・内臓など、身体のあらゆる組織を包み、支え、つないでいる結合組織です。
これらはそれぞれ独立しているのではなく、全身で連続したネットワークを形成しています。
そのため近年では、「筋膜」というよりも、身体全体をつなぐ**ファシア(Fascia)**という概念で捉えられるようになっています。
ファシア=筋肉、神経、血管、内臓などを支持し、組織間の連続性を形成する結合組織のネットワーク
この考え方を理解すると、**「痛みのある場所とは別の部位を施術する理由」**も理解しやすくなります。
① ファシアを構成する主な組織
- 浅筋膜
- 深筋膜
- 筋外膜・筋周膜・筋内膜
- 腱・腱膜
- 靭帯
- 関節包
- 骨膜
- 内臓筋膜
② ファシアが包み、支え、つないでいる主な組織
- 筋肉
- 骨
- 神経
- 血管・リンパ管
- 内臓

【筋膜の3つの役割】
筋膜には、主に次の3つの役割があります。
- 身体を支え、各組織を適切な位置に保つ
- 組織同士が滑らかに動けるよう、滑走性を維持する
- 筋肉で生まれた力や張力を全身へ伝える
例えば、腕を上げる動作では、筋肉が収縮して力を生み出し、その力が腱を介して骨へ伝わることで関節が動きます。
このとき、ファシアは組織同士がスムーズに滑り合える環境を保ち、効率的な動きを支えています。
そのため、ファシアの滑走性が低下すると可動域の制限や痛みにつながることがあります。

【「筋膜=一枚の膜」ではない】
ここで、多くのセラピストが勘違いしているポイントがあります。
それは、筋膜は一枚の膜ではないということです。
筋膜は部位や深さによって構造や役割が異なります。
例えば、
- 皮膚のすぐ下にある浅筋膜
- 筋肉を包み、筋群を区画する深筋膜
- 筋肉一本一本を包む筋外膜・筋周膜・筋内膜
つまり、「筋膜にアプローチする」と言っても、実際にはどの層を評価し、どの層へ介入しているのかを理解することが重要です。
この違いを理解するだけでも、筋膜リリースに対する考え方は大きく変わります。
そこで次章では、臨床で最初に評価することが多い浅筋膜について詳しく解説していきます。
【浅筋膜とは?】
浅筋膜とは、皮膚のすぐ下にある結合組織で、皮膚と深筋膜の間を満たしています。
この層には脂肪組織だけでなく、血管・リンパ管・神経が豊富に存在し、皮膚と深部組織をつなぐ役割を担っています。
そのため、浅筋膜リリースでは、皮膚や皮下組織の滑走性を改善し、皮膚の動きや柔軟性を高めることを目的に行われます。
比較的やさしい圧で行うことが多く、皮膚のつっぱり感や瘢痕周囲の硬さ、むくみなどに用いられることがあります。
浅筋膜の役割
浅筋膜にはさまざまな役割がありますが、臨床で特に重要なのは次の4つです。
- 皮膚と深部組織をつなぐ
- 組織同士の滑走性を維持する
- 血管・リンパ管・神経の通り道となる
- 外力を分散し、衝撃を吸収する

【深筋膜とは?】
浅筋膜が皮膚のすぐ下にある組織であるのに対し、深筋膜は筋肉を包み、筋肉同士をつなぐ結合組織です。
深筋膜リリースでは、筋肉や筋間の滑走性を改善し、関節運動や筋機能をスムーズにすることを目的として行われます。
深筋膜の役割
深筋膜にはさまざまな役割がありますが、臨床で重要なのは次の4つです。
- 筋肉や筋群を包み、適切な位置を保つ
- 筋肉同士の滑走性を維持する
- 筋収縮で生まれた力を効率よく伝達する
- 姿勢の安定や運動効率に関与する
例えば、歩く・しゃがむ・投げるといった動作では、一つの筋肉だけが働いているわけではありません。
複数の筋肉がタイミングよく協調し、それぞれが滑らかに動くことで、スムーズな運動が実現します。
その「滑走路」のような役割を担っているのが深筋膜です。
もし筋肉同士の滑走がうまくいかなければ、本来の筋力を発揮しにくくなり、代償動作や過剰な筋緊張につながることもあります。
【浅筋膜と深筋膜の違い】
ここまで浅筋膜と深筋膜について、それぞれ解説してきました。
では、この2つは何が違うのでしょうか。
結論から言うと、最も大きな違いは「存在する場所」と「役割」です。
浅筋膜は皮膚のすぐ下にあり、皮膚と深部組織をつなぎながら、皮膚や皮下組織の滑走を支えています。
一方、深筋膜は筋肉の表面を覆い、筋肉同士を区画しながら、力の伝達や運動の効率化を担っています。
つまり、
- 浅筋膜は「皮膚の動きを支える組織」
- 深筋膜は「筋肉の動きを支える組織」
と考えるとイメージしやすいです。
浅筋膜と深筋膜の比較
| 項目 | 浅筋膜 | 深筋膜 |
|---|---|---|
| 存在する場所 | 皮膚の直下 | 筋肉の表面 |
| 主な構成 | 脂肪組織・血管・リンパ管・神経 | コラーゲン線維が豊富な結合組織 |
| 主な役割 | 皮膚・皮下組織の滑走 | 筋肉同士の滑走・力の伝達 |
| 臨床での特徴 | 感覚入力や皮膚の可動性に関与 | 姿勢・筋機能・運動効率に関与 |
| 評価のポイント | 皮膚の滑走性・可動性 | 筋の滑走性・運動時の機能 |
臨床ではどちらが重要なのか?
「浅筋膜と深筋膜では、どちらを評価すべきですか?」
これはセミナーでもよくいただく質問です。
私の答えは、「どちらも重要」です。
浅筋膜だけを評価しても不十分ですし、深筋膜だけに着目しても、本当の原因を見落とすことがあります。
実際には、
- 表層の滑走性が低下しているケース
- 深筋膜の機能低下が主な問題になっているケース
- 両方に機能低下がみられるケース
など、患者さんによって状態はさまざまです。

【 癒着が起こりやすいのは浅筋膜?深筋膜?】
結論として、どちらか一方が圧倒的に癒着しやすいというエビデンスはありません。
ただし、臨床的には次のような傾向があります。
浅筋膜
起こりやすいケース
- 手術後
- 外傷後
- 火傷後
- 瘢痕形成
- 長期間の浮腫
このような場合は、皮膚と皮下組織の滑走障害が起こりやすく、浅筋膜レベルの癒着(瘢痕性癒着)が問題になります。
深筋膜
起こりやすいケース
- 長期間の不動
- オーバーユース
- 慢性的な筋緊張
- 筋損傷後
このような場合は、筋間や筋膜間の滑走性低下がみられることがあります。
【アナトミートレインを意識した筋膜リリース】
アナトミートレインを意識したリリースは、深筋膜を意識します。
理由は、
アナトミートレインでは
- スーパーフィシャル・バックライン
- スーパーフィシャル・フロントライン
- ラテラルライン
- スパイラルライン
など、筋肉同士を連続する筋膜ネットワークとして捉えています。
つまり対象は
- 深筋膜
- 筋外膜
- 腱
- 腱膜
など、筋骨格系のファシアが中心です。
これらは深筋膜へのアプローチという位置づけで語られることが多いです。

浅筋膜と深筋膜では「タッチ」がまったく違う
筋膜リリースが上手なセラピストほど、力ではなく組織に合わせて触り方を変えています。
浅筋膜のタッチのコツ
浅筋膜は皮膚のすぐ下にあり、リンパ管・血管・感覚受容器が豊富な組織です。そのため、強い刺激は必要ありません。
コツは**「皮膚をつまむ」のではなく、「皮膚を一緒に滑らせる」こと。**
手のひらを皮膚に密着させ、皮膚と一緒に数ミリ動かすだけで十分です。無理に押し込むよりも、皮膚の遊びを感じながら動かした方が、自律神経は安心し、組織は緩みやすくなります。
深筋膜のタッチのコツ
一方、深筋膜は筋肉を包む強固な結合組織です。
ここで多くのセラピストがやってしまうのが、「届かせよう」と押し込むこと。しかし、強い圧は筋紡錘を刺激し、防御性収縮を招くため、かえって筋緊張を高めてしまいます。
コツは**「押す」のではなく、「圧を止めて待つ」こと。**
組織にゆっくり圧を伝えたら、それ以上は押し込まず、その場で数秒待ちます。すると、抵抗がふっと抜ける瞬間があります。その変化を感じてから、必要であればさらにわずかに深く入ります。
深筋膜は、力で変える組織ではありません。組織が受け入れるタイミングを待てる手こそ、本当に深部へ届くタッチです。
浅筋膜は「皮膚を滑らせる」。深筋膜は「圧を止めて待つ」。
この違いを理解するだけで、同じ手技でも患者さんの身体の反応は大きく変わります。
【まとめ】
筋膜リリースで大切なのは、「筋膜」という一つの組織として捉えるのではなく、浅筋膜と深筋膜、それぞれの役割や特徴を理解して評価・施術することです。
どの層に問題があるのかを見極め、組織に合わせたタッチを選択できるようになることで、施術の精度は大きく向上します。
ぜひ明日からの臨床で、「どの筋膜を触っているのか」を意識しながら評価・施術を行ってみてください。























