皆さん、こんにちは。
ALLアプローチ協会 代表の山口拓也です。
今回は、「副腎リリース」について、解剖学から臨床までセラピスト向けに詳しく解説していきます。
1.副腎の解剖学

副腎は、左右の腎臓の上極付近に位置する小さな臓器です。
右副腎と左副腎では形が異なります。
- 右副腎:三角形に近い形
- 左副腎:半月状に近い形
よく「腎臓の上に乗っている臓器」と説明されますが、実際には単純に腎臓の上に置かれているわけではありません。
副腎の周囲には、次のような重要な組織があります。
- 横隔膜
- 腎筋膜
- 腎臓
- 腹部大動脈
- 下大静脈
- 腹腔神経叢
- 腎動静脈
- 周囲脂肪組織
つまり、副腎を理解するには、副腎だけを見るのではなく、周囲組織との位置関係を理解する必要があります。

副腎は血流が豊富な臓器
副腎は小さな臓器ですが、非常に豊富な血液供給を受けています。
主に、次の動脈から血液が送られます。
- 上副腎動脈
- 中副腎動脈
- 下副腎動脈
一方、静脈は左右それぞれ基本的に一本です。
右副腎静脈は下大静脈へ、左副腎静脈は左腎静脈へ流入します。
この左右差は、セラピストが副腎周囲の解剖を考えるうえでも興味深いポイントです。
セラピストが押さえたい視点
副腎へアプローチするときは、単に「副腎の位置」を覚えるだけでは不十分です。
周囲の筋膜、血管、横隔膜、腎臓との関係まで含めて、立体的にイメージすることが重要です。

2.副腎=コルチゾールだけではない
副腎というと、「コルチゾールを出す臓器」というイメージが強いかもしれません。
しかし、副腎が分泌しているホルモンはコルチゾールだけではありません。
副腎は、大きく分けると次の二つの部分から構成されています。
副腎皮質
副腎皮質からは、主に次のホルモンが分泌されます。
- アルドステロン
- コルチゾール
- DHEAなどの副腎アンドロゲン
副腎髄質
副腎髄質からは、主に次のホルモンが分泌されます。
- アドレナリン
- ノルアドレナリン
つまり、副腎は次のような働きに関わっています。
- 血糖の維持
- 血圧の調節
- 水分・電解質バランス
- 炎症反応の調整
- ストレスへの適応
- 緊急時の身体反応
副腎は、単なる「ストレスの臓器」ではありません。
身体を一定の状態に保つために、多方面から働いている臓器です。

3.副腎ホルモンには日内変動がある
コルチゾールは、一日中同じ量が分泌されているわけではありません。
通常は、朝に高く、夜に低くなるリズムを持っています。
一般的なコルチゾールの流れ
朝
起床前後に分泌量が増え、身体を活動モードへ切り替えます。
昼
朝よりも徐々に低下しますが、活動を支えるために一定量が分泌されます。
夜
分泌量が低下し、休息や睡眠へ向かいやすい状態になります。
このリズムが乱れると、次のような状態が起こることがあります。
- 朝起きられない
- 午前中に頭が働かない
- 夕方になると疲労感が強い
- 夜になると目が冴える
- 寝ても回復した感じがしない
ここで重要なのは、これらをすべて副腎だけの問題として捉えないことです。
睡眠、光刺激、食事時間、血糖変動、心理的ストレスなども、日内リズムに影響します。
臨床での確認ポイント
副腎やストレス反応を考えるときは、次のことも確認します。
- 起床時間
- 就寝時間
- 朝食の有無
- カフェインの摂取時間
- 夜間のスマートフォン使用
- 午後から夜にかけての疲労感
- 寝つきや中途覚醒
副腎を見ることは、生活リズムを見ることでもあります。

4.コルチゾールは炎症を止める
コルチゾールは、悪いホルモンとして扱われることがあります。
しかし、本来のコルチゾールは、身体を守るために必要なホルモンです。
その重要な役割の一つが、炎症反応の調整です。
身体に炎症が起こると、免疫細胞からさまざまな炎症性物質が放出されます。
コルチゾールは、それらが過剰になりすぎないように調節します。
コルチゾールの主な役割
- 炎症反応を抑える
- 血糖を維持する
- 血圧を保つ
- ストレス時のエネルギーを確保する
- 過剰な免疫反応を調整する
問題なのは、コルチゾールそのものではありません。
問題になるのは、分泌の量、タイミング、持続時間、フィードバック機能が乱れることです。
覚えておきたいこと
「コルチゾールが高いから悪い」
「コルチゾールを下げればよい」
このような単純な考え方では、身体のストレス反応を正しく捉えられません。
コルチゾールは、身体を壊すためではなく、身体を守るために分泌されています。

5.副腎よりHPA軸が重要
ストレスを感じたとき、最初に反応するのは副腎ではありません。
まず脳がストレス刺激を認識します。
その後、次のような流れで反応が起こります。
HPA軸の流れ
- 視床下部がストレスを認識する
- 視床下部からCRHが分泌される
- 下垂体からACTHが分泌される
- ACTHが副腎皮質を刺激する
- 副腎皮質からコルチゾールが分泌される
この仕組みを、HPA軸と呼びます。
HPA軸とは、
- Hypothalamus:視床下部
- Pituitary:下垂体
- Adrenal:副腎
の頭文字を取ったものです。
副腎は命令を受ける側
この流れを見ると、副腎が単独で勝手にコルチゾールを分泌しているわけではないことがわかります。
副腎は、視床下部と下垂体からの指令を受けて働いています。
そのため、慢性的なストレス反応を考える場合は、副腎だけに注目するのではなく、次の要素も考える必要があります。
- 睡眠不足
- 心理的ストレス
- 慢性的な炎症
- 血糖の乱れ
- 過度な運動
- 栄養不足
- 夜間の光刺激
- 生活リズムの乱れ
セラピストが持ちたい視点
副腎を局所的な臓器として見るのではなく、脳と身体をつなぐストレス反応の一部として見ることが大切です。
つまり、
「副腎を整える」
というよりも、
「HPA軸が正常に働きやすい環境をつくる」
という考え方の方が、身体全体を捉えやすくなります。

6.副腎とビタミンC
副腎は、体内でもビタミンC濃度が高い臓器の一つです。
ビタミンCは、単なる美容や風邪予防の栄養素ではありません。
副腎では、ホルモン産生や抗酸化防御に関わっています。
ビタミンCが関わる主な働き
- カテコールアミン合成の補助
- 抗酸化作用
- ストレス時の酸化負担への対応
- 結合組織や血管の維持
- 鉄の吸収促進
- 免疫機能のサポート
ストレスが続いている人ほど、食事内容が乱れやすくなります。
- 朝食を抜く
- 甘い物が増える
- コーヒーに頼る
- 野菜や果物が減る
- コンビニ食が増える
このような生活では、身体が必要とする栄養素を十分に補いにくくなります。
栄養指導で意識したいこと
ビタミンCだけを単独で摂ればよい、ということではありません。
次のような食事全体を見直すことが重要です。
- 良質なたんぱく質
- 野菜
- 果物
- ミネラル
- 適切な糖質
- 十分なエネルギー摂取
栄養は、副腎だけを支えるのではなく、HPA軸全体が働くための土台になります。

7.副腎と横隔膜
セラピストにとって、特に重要なのが副腎と横隔膜の位置関係です。
副腎は、横隔膜脚の近くに位置しています。
また、腎筋膜や周囲組織を介して、横隔膜、腎臓、大血管などと関係しています。
なぜ横隔膜を見るのか
横隔膜は呼吸のたびに上下します。
その動きは、腹腔内圧、静脈還流、リンパ循環、腹部臓器の動きにも影響します。
そのため、副腎を考えるときに横隔膜を無視することはできません。
ただし、
「横隔膜を緩めれば副腎ホルモンが正常化する」
と単純に結びつけることはできません。
重要なのは、横隔膜が副腎周囲の力学的環境を考えるうえで、重要な評価対象になるということです。
副腎周囲を考える評価ポイント
- 下位肋骨の動き
- 横隔膜の呼吸運動
- 胸腰移行部の可動性
- 腹部の緊張
- 腰部の過緊張
- 呼吸の深さ
- 左右の呼吸差
- 腹圧の使い方
副腎を直接触ることだけが、副腎へのアプローチではありません。
周囲環境を整えることも、セラピストができる重要なアプローチです。
8.副腎リリースの前に考えたいこと
副腎は深部に位置する小さな臓器です。
そのため、体表から副腎だけを正確に触り分けることは簡単ではありません。
副腎リリースを考えるときは、次のような視点が必要です。
局所だけを見ない
副腎周囲には多くの重要な組織があります。
- 腎臓
- 大血管
- 横隔膜
- 腎筋膜
- 腹腔神経叢
- 周囲脂肪組織
そのため、「副腎を押す」という考え方ではなく、周囲組織の状態を評価することが重要です。
ホルモン分泌を直接操作できると考えない
手技によって副腎ホルモンの分泌を自由に調整できる、と考えるのは慎重であるべきです。
セラピストが行えるのは、呼吸、胸郭、筋緊張、循環、睡眠、生活習慣などを通して、身体が回復しやすい環境を整えることです。
副腎だけに原因を求めない
疲労、睡眠障害、血圧変動、慢性痛などは、副腎だけで説明できません。
身体症状には多くの要因が関わります。
- 睡眠
- 栄養
- 運動
- 心理的ストレス
- 感染や炎症
- 服薬
- 内分泌疾患
- 貧血
- 血糖調節
副腎という言葉だけで、すべてを説明しようとしない姿勢が大切です。
まとめ
副腎は、単にコルチゾールを分泌する臓器ではありません。
血圧、血糖、炎症、免疫、水分バランス、ストレス応答など、身体の恒常性に深く関わっています。
今回のポイントを整理します。
副腎を理解するための8つの視点
- 副腎は腎臓の上にあるだけではない
- 横隔膜や腎筋膜、大血管と密接な位置関係にある
- 副腎はコルチゾール以外のホルモンも分泌する
- コルチゾールには日内変動がある
- コルチゾールは炎症を調節する重要なホルモン
- ストレス反応は副腎単独ではなくHPA軸で考える
- 副腎の働きには栄養状態も関係する
- 副腎リリースは局所だけでなく周囲環境から考える
副腎リリースという手技を学ぶ前に、まず解剖学と生理学を理解する。
この順番が大切です。
セラピストが行うべきことは、副腎を無理に変えようとすることではありません。
呼吸、胸郭、横隔膜、生活リズム、栄養、ストレス環境を確認し、身体が本来の調節機能を発揮しやすい状態をつくることです。
副腎そのものを見るのではなく、副腎が働くための環境を見る。
その視点が、臨床で身体を深く理解するための一歩になります。
ALLアプローチ協会 代表 山口拓也






















