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仙腸関節の解剖学|プロのセラピストが知っておきたい構造・安定性・評価

こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。

今回は、多くのセラピストが一度は学ぶ**仙腸関節(Sacroiliac Joint:SIJ)**について解説します。

仙腸関節は、腰痛や股関節痛、殿部痛を考えるうえで欠かせない関節です。

一方で、

  • 「仙腸関節はほとんど動かない」
  • 「仙腸関節は歪みやすい」
  • 「仙骨を動かせば症状は改善する」

など、さまざまな考え方があり、混乱している方も少なくありません。

だからこそ、プロのセラピストに求められるのは、テクニックを覚えることではなく、まず仙腸関節の構造を理解することです。

関節面はどのような形をしているのか。

どのような靭帯で支えられているのか。

どの程度動く関節なのか。

これらを理解することで、触診や徒手療法の見え方は大きく変わります。

今回は、仙腸関節の解剖学を中心に整理していきます。


仙腸関節とは何か?

仙腸関節は、仙骨と腸骨を連結する関節です。

脊柱から伝わる荷重を骨盤へ伝え、さらに下肢へ分散する役割を担っています。

歩行や立位では、体重は腰椎から仙骨へ伝わり、その後、左右の腸骨を介して股関節へ移動します。

つまり仙腸関節は、

体幹と下肢をつなぐ荷重伝達の中継点

と考えることができます。

関節として分類すると、仙腸関節は完全な滑膜関節ではありません。

前方は滑膜関節の特徴を持ちますが、後方は非常に強固な靭帯によって結合されており、線維性結合に近い構造を示します。

そのため、

「大きく動く関節」

ではなく、

安定性を最優先に設計された関節

という理解が重要です。

肩関節や股関節のように広い可動域を持つ関節とは、構造そのものが異なります。


仙腸関節の関節面は非常に特殊

仙腸関節を理解するうえで最も重要なのが、

耳状面(Auricular Surface)

です。

仙骨と腸骨の関節面は耳のような形をしていることから、この名前が付けられています。

しかし重要なのは形だけではありません。

仙腸関節の関節面は決して平らではなく、

細かな隆起や陥凹が多数存在しています。

この凹凸構造によって、

互いの骨同士が噛み合うようになっています。

もし仙腸関節が平坦な関節面で構成されていた場合、

荷重が加わるたびに骨盤は大きくずれてしまいます。

しかし実際には、

耳状面の凹凸が「機械的なロック機構」として働き、

高い安定性を生み出しています。

この構造はForm Closure(形態的安定性)の基盤となる解剖学です。


加齢によって関節面は変化する

仙腸関節の関節面は、一生同じではありません。

若年者では比較的滑らかな関節面ですが、

加齢とともに、

・凹凸の増加

・関節軟骨の変性

・骨硬化

などが進行します。

この変化によって関節面の摩擦は増加し、

可動性は徐々に低下します。

臨床で高齢者の骨盤を評価すると、

若年者よりも仙腸関節の動きが少なく感じられることがあります。

これは単なる筋緊張だけではなく、

関節構造そのものの変化も影響しています。

また男女でも形態に違いがあります。

女性では妊娠・出産に対応するため、

男性よりも可動性を許容する構造になっています。

一方で男性では、

耳状面の凹凸が強く、

より安定性を重視した形態を示します。


関節軟骨にも違いがある

仙腸関節では、

仙骨側と腸骨側で軟骨の種類が異なります。

仙骨側は比較的厚い硝子軟骨で覆われています。

一方、

腸骨側は線維軟骨の割合が多く、

摩擦へ適応した構造を持っています。

この違いは、

荷重伝達関節という特殊な役割を反映しています。

また、

関節面全体に均等な軟骨が存在するわけではありません。

部位によって厚さが異なるため、

荷重の集中する場所も一定ではありません。

仙腸関節を単純な蝶番関節として考えると、

この構造は理解できません。


関節包は前方と後方で全く違う

仙腸関節には関節包が存在します。

しかし、

前方と後方では構造が大きく異なります。

前方には比較的薄い関節包があります。

一方、

後方では、

関節包というより、

強力な靭帯群によって補強されています。

そのため、

後方から触診しているとき、

実際に触れているのは、

靭帯や筋膜であることがほとんどです。

「仙腸関節そのものを触る」

というより、

その周囲組織を介して評価している、

という理解の方が解剖学的には正確です。


仙腸関節は本当に動くのか?

これは多くのセラピストが疑問に思うテーマです。

結論から言えば、

仙腸関節は動きます。

ただし、

その可動域は非常に小さいものです。

研究によって差はありますが、

回旋運動は数度以内、

並進運動も数mm程度と報告されています。

この可動域だけを見ると、

「ほとんど動かない」

と感じるかもしれません。

しかし、

歩行や片脚立位では、

このわずかな運動が荷重伝達に大きく関与しています。

関節運動は、

必ずしも大きければ重要というわけではありません。

仙腸関節では、

数mmの運動が、

腰椎・股関節・下肢全体の力学へ影響します。


Nutationとは何か?

仙腸関節で最も重要な運動が

Nutation(ニューテーション)

です。

Nutationとは、

仙骨底が前下方へ傾き、

仙骨尖が後上方へ移動する運動を指します。

このとき、

左右の腸骨に対して仙骨がわずかに前方へ回旋します。

荷重位では、

Nutation方向へ誘導されることが多く、

仙腸関節の安定性を高める働きがあります。

例えば、

立ち上がり、

歩行、

階段昇降、

ジャンプ着地などでは、

体重が仙骨へ伝わるため、

Nutation方向への力が加わります。

その結果、

耳状面の凹凸がより密着し、

靭帯にも適度な張力が生じます。

つまり、

Nutationは単なる関節運動ではなく、

荷重を安全に伝えるための安定化機構でもあります。


Counternutationとは何か?

Nutationと反対方向の運動が、

Counternutation(カウンターニューテーション)

です。

仙骨底が後上方へ移動し、

仙骨尖が前下方へ移動する運動を指します。

臥位や股関節屈曲など、

荷重が減少する場面では、

Counternutation方向への運動が生じやすくなります。

ただし、

Nutation・Counternutationを、

大きく動く骨盤運動として考える必要はありません。

実際の運動量は非常に小さく、

触診だけで正確に判定することは容易ではありません。

重要なのは、

「仙腸関節には荷重に応じた微小な回旋運動が存在する」

という解剖学的事実を理解することです。

この構造を理解すると、

歩行や立位で骨盤がどのように安定性を獲得しているのかが見えてきます。

仙腸関節を支える最も重要な靭帯

仙腸関節は可動域が小さい一方で、非常に強固な靭帯によって支持されています。

この靭帯構造を理解すると、仙腸関節が「動く関節」というより「安定させる関節」であることがよく分かります。

代表的な靭帯は以下の6つです。

・前仙腸靭帯

・骨間仙腸靭帯

・後仙腸靭帯

・仙結節靭帯

・仙棘靭帯

・腸腰靭帯

それぞれ役割が異なるため、個別に理解することが重要です。

前仙腸靭帯

前仙腸靭帯は、仙骨前面と腸骨を連結する靭帯です。

前方の関節包が肥厚した構造と考えられ、比較的薄い靭帯です。

後方靭帯と比較すると強度は高くありません。

そのため、仙腸関節の主要な安定化には大きく関与しませんが、前方からの支持組織として関節包を補強しています。

徒手療法では触診が困難な部位であり、直接評価することはほとんどありません。

骨間仙腸靭帯

仙腸関節を理解する上で最も重要なのが骨間仙腸靭帯です。

仙骨粗面と腸骨粗面を連結する非常に強力な靭帯であり、人の身体の中でも最も強い靭帯の一つとされています。

この靭帯は耳状面のすぐ後方に位置しています。

つまり、仙骨と腸骨を実質的につないでいるのは、この骨間仙腸靭帯です。

歩行や立位では体重が腰椎から仙骨へ伝わります。

その荷重に抵抗し、仙骨が前下方へ滑ることを防いでいるのが骨間仙腸靭帯です。

仙腸関節の安定性を語るとき、この靭帯を外すことはできません。

後仙腸靭帯

後仙腸靭帯は浅層と深層に分けられます。

深層は仙骨と腸骨を短く連結し、仙腸関節の直接的な安定化へ関与します。

浅層は仙骨から上後腸骨棘付近まで広く走行し、骨盤全体の安定性に寄与しています。

臨床ではPSIS周囲を触診することがありますが、この部位では後仙腸靭帯やその周囲組織へ触れていることが多くあります。

PSIS周囲の圧痛をすべて仙腸関節由来と考えることは適切ではありません。

後仙腸靭帯、筋膜、皮神経なども考慮する必要があります。

仙結節靭帯と仙棘靭帯

仙結節靭帯は仙骨から坐骨結節へ向かいます。

仙棘靭帯は仙骨から坐骨棘へ向かいます。

どちらも仙骨が過度に前方へ傾くことを制限する役割があります。

また、大坐骨孔・小坐骨孔を形成する重要な靭帯でもあります。

このため、骨盤内外を通過する神経や血管との位置関係を理解するうえでも重要な構造です。

腸腰靭帯

腸腰靭帯は第4・第5腰椎横突起から腸骨稜へ向かいます。

腰椎と骨盤を連結する靭帯であり、腰椎の過剰な側屈や回旋を制限しています。

腰椎と仙腸関節は力学的に密接な関係があります。

そのため、腰椎の不安定性が仙腸関節への負担につながることがあります。

Form Closureとは何か

仙腸関節ではForm Closureという概念が重要です。

Form Closureとは、

骨の形状によって生まれる安定性

を意味します。

耳状面の凹凸構造。

骨間仙腸靭帯。

関節面同士の適合性。

これらはすべてForm Closureを構成する要素です。

つまり、筋肉が働かなくても、骨そのものの形状によって一定の安定性が確保されています。

これは肩関節や膝関節とは異なる、仙腸関節特有の特徴です。

Force Closureとは何か

一方、Force Closureとは筋や筋膜、靭帯張力によって追加される安定性です。

荷重が加わると、

筋収縮によって関節面へ圧縮力が加わります。

これによって耳状面同士がさらに密着し、荷重伝達効率が高まります。

つまり、

Form Closureが「骨の安定性」

Force Closureが「筋・筋膜による安定性」

という理解になります。

この二つは独立したものではなく、互いに補完し合っています。

Force Closureへ関与する筋群

Force Closureを考える際に重要な筋は、

・大殿筋

・広背筋

・腹横筋

・多裂筋

・内腹斜筋

・骨盤底筋

などです。

例えば大殿筋は胸腰筋膜を介して広背筋との連結を持っています。

歩行では、

右広背筋と左大殿筋、

左広背筋と右大殿筋

というように対角線方向の張力が生じます。

この張力が胸腰筋膜を介して仙腸関節へ圧縮力を与えています。

仙腸関節を「筋肉が動かす」と考えるよりも、

筋肉が安定性を高めている

と考える方が解剖学的です。

胸腰筋膜との関係

胸腰筋膜は腰背部全体を覆う強固な筋膜です。

広背筋、大殿筋、多裂筋、腹横筋など、多くの筋が連結しています。

この筋膜は仙骨後面にも付着しており、筋収縮による張力を骨盤へ伝達しています。

そのため、

胸腰筋膜の張力変化は仙腸関節のForce Closureにも影響します。

近年では、

仙腸関節を局所だけで評価するのではなく、

胸腰筋膜を含めた荷重伝達システムとして考えることが重要視されています。

仙腸関節の神経支配

仙腸関節の神経支配は単純ではありません。

一般的には、

前方はL4〜S2、

後方はL4〜S3の後枝から感覚入力を受けています。

複数の神経枝が分布するため、

仙腸関節由来の疼痛は局所だけに限局しません。

殿部、

鼠径部、

大腿後面、

時には下腿まで関連痛を示すことがあります。

そのため、

「殿部痛だから仙腸関節」

と単純に判断することはできません。

腰椎椎間関節、

椎間板、

股関節、

殿筋群、

末梢神経などとの鑑別が必要になります。

徒手療法を行う前に理解したいこと

仙腸関節へのアプローチでは、

「仙骨を動かす」

「腸骨を矯正する」

という表現を耳にすることがあります。

しかし、仙腸関節の可動域は数mm、数度程度です。

さらに、その安定性は強固な靭帯と耳状面の凹凸によって維持されています。

この構造を理解すると、

外部から大きく骨を動かすことを目的とした説明には慎重になる必要があります。

一方で、仙腸関節周囲の筋緊張や荷重伝達の変化、姿勢や運動パターンの改善によって、症状や機能が変化することは臨床でも経験されます。

そのため重要なのは、

「仙腸関節そのものを大きく動かす」

ことではなく、

仙腸関節へどのような力が加わっているのかを評価することです。

例えば、

股関節の可動性低下によって骨盤の運動が変化していないか。

胸郭の回旋制限によって歩行時の荷重伝達が乱れていないか。

腹横筋や多裂筋が適切に機能しているか。

大殿筋が荷重位で十分に活動できているか。

こうした全身の運動連鎖を評価したうえで仙腸関節を考えると、局所だけでは見えなかった問題点が明確になります。

仙腸関節は「動かすための関節」ではなく、「荷重を安全に伝えるための関節」です。

その役割を理解したうえで解剖学を学ぶことが、触診や徒手療法の精度を高める第一歩になります。

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