内臓調整

【小腸リリースの解剖学】小腸を触る前に知ってほしい7つの重要ポイント|セラピスト向け

こんにちは。

ALLアプローチ協会の山口です。

内臓整体やオステオパシーを学んでいると、

「小腸を緩める」

「腸の動きを良くする」

「お腹の硬さを取る」

といったアプローチを行うことがあります。

しかし、小腸を単純に

「お腹の中にある柔らかい管」

として考えてしまうと、その解剖学的な特徴を見落としてしまいます。

小腸は、

・約5〜6mに及ぶ長い消化管
・腸間膜によって後腹壁とつながる
・上腸間膜動脈から血液供給を受ける
・リンパ系によって脂質を輸送する
・自律神経系の影響を受ける
・蠕動や分節運動によって常に動く

という非常に複雑な構造です。

つまり小腸へのアプローチを考えるなら、

「どこを押すか」より先に、「小腸が何とつながっているのか」を理解すること

が重要です。

今回は、セラピストが小腸リリースを行う前に知っておきたい7つの解剖学的ポイントを解説します。


【①小腸は「十二指腸・空腸・回腸」に分かれる】

まず基本となるのが、小腸そのものの解剖です。

小腸は大きく、

十二指腸

空腸

回腸

の3つに分けられます。

ただし、この3つは同じように存在しているわけではありません。

特に重要なのが、

十二指腸と空腸・回腸では固定性が大きく異なる

ということです。

十二指腸の大部分は後腹膜に固定されています。

一方、空腸・回腸は腸間膜によって後腹壁から吊り下げられているため、比較的高い可動性を持っています。

つまり、

小腸=全部が自由に動く

わけではありません。

固定性の高い部分と、可動性の高い部分が連続している。

この違いを理解することが、小腸を立体的に捉える第一歩です。


【②小腸は“腸間膜”によって後腹壁につながっている】

小腸リリースで非常に重要なのが、

腸間膜(mesentery)

です。

空腸・回腸は、腹腔内にただ浮いているわけではありません。

腸間膜によって、

後腹壁と連結されています。

腸間膜は腹膜が二重になった構造で、その内部には、

・動脈
・静脈
・リンパ管
・リンパ節
・神経
・脂肪組織

などが走行しています。

つまり腸間膜は、

小腸を支える膜であると同時に、小腸へ血管・神経・リンパを届ける“通り道”

でもあります。

ここが非常に重要です。

小腸だけを局所的に見ていると、

「腸管そのものの硬さ」

だけに注目してしまいます。

しかし解剖学的には、

小腸と後腹壁をつないでいる腸間膜まで含めて一つのユニット

として考える必要があります。


【③腸間膜根は“斜め”に走っている】

さらに腸間膜には、

腸間膜根

があります。

これは腸間膜が後腹壁へ付着する部分です。

腸間膜根は、おおよそ

左上腹部の十二指腸空腸曲付近から、右下腹部の回盲部付近へ向かって斜めに走行

します。

長さ自体は小腸全体よりはるかに短いにもかかわらず、その先に長い空腸・回腸が扇状に広がっています。

そして、この腸間膜根の周囲には重要な構造があります。

十二指腸。

腹部大動脈。

下大静脈。

右尿管。

大腰筋。

性腺血管。

などです。

つまり、

小腸の付着部周囲には、血管・尿路・筋骨格系など複数の構造が存在する

ということです。

小腸を「腹部前面から触れる臓器」としてだけ理解するのではなく、

後腹壁とのつながりを立体的にイメージすること

が大切です。


【④小腸の血流は上腸間膜動脈が重要】

小腸へのアプローチを考えるなら、

血管解剖

も外せません。

空腸・回腸への血液供給で中心となるのが、

上腸間膜動脈(SMA)

です。

上腸間膜動脈は腹部大動脈から分岐し、腸間膜内を走行して小腸へ枝を送ります。

空腸動脈・回腸動脈は、

動脈弓(arterial arcades)

を形成します。

そこから、

直動脈(vasa recta)

が腸管へ向かいます。

面白いのが、空腸と回腸では血管のパターンが少し異なることです。

一般的に、

空腸
→ 動脈弓が比較的少ない
→ 直動脈が長い

回腸
→ 動脈弓が多層化しやすい
→ 直動脈が短い

という特徴があります。

小腸を学ぶとき、

「腸管の位置」だけでなく、

その腸管を養っている血管が腸間膜の中をどう走っているのか

まで理解すると、解剖の見え方が変わります。


【⑤小腸は“巨大なリンパ吸収器官”でもある】

小腸というと、

「消化・吸収をする臓器」

というイメージが強いと思います。

しかしリンパ系から見ると、小腸は非常に重要な場所です。

小腸粘膜には多数の

絨毛

があります。

そして絨毛内部には、

中心乳び管

と呼ばれるリンパ管が存在します。

食事から摂取した脂質のうち長鎖脂肪酸などは、腸上皮細胞内で再構成された後、

カイロミクロン

となって中心乳び管へ入ります。

そこから、

中心乳び管

腸管リンパ系

腸間膜リンパ節

腸リンパ本幹

胸管系

静脈循環

へとつながっていきます。

つまり小腸は、

単に食べ物を消化する場所ではありません。

消化管とリンパ循環をつなぐ重要な場所

でもあるのです。

さらに腸管にはパイエル板などのリンパ組織が存在し、粘膜免疫にも重要な役割を持っています。

小腸を見るなら、

消化+吸収+リンパ+免疫

までセットで考えると理解が深まります。


【⑥小腸は自律神経だけで動いているわけではない】

小腸と神経の関係も重要です。

よく、

「副交感神経が働くと腸が動く」

と説明されます。

もちろん自律神経系は重要ですが、小腸の運動をそれだけで説明することはできません。

消化管には、

腸管神経系(enteric nervous system)

が存在します。

代表的なのが、

筋間神経叢(アウエルバッハ神経叢)

粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)

です。

特に筋間神経叢は、消化管運動の調節に深く関係します。

さらに小腸は、

分節運動や蠕動運動

によって内容物を混和・輸送しています。

そして外来性の自律神経として、

副交感神経系では主に迷走神経

交感神経系では腹腔神経節・上腸間膜神経節などを介する経路が関与します。

つまり、

小腸は「脳から命令されないと動けない管」ではありません。

腸管自体にも高度な神経ネットワークが存在し、そこへ自律神経系が調節を加えています。

小腸の生理学を理解するうえで、非常に重要なポイントです。


【⑦回腸の先には“回盲部”がある】

小腸を最後まで追っていくと、

回腸は右下腹部で大腸へつながります。

ここが、

回盲部

です。

回腸と盲腸の境界には、

回盲弁

があります。

ここで小腸の内容物が大腸側へ移動していきます。

さらに回盲部周囲には、

盲腸。

虫垂。

上行結腸。

終末回腸。

腸間膜。

後腹壁。

腸腰筋周辺。

など、複数の構造が近接しています。

そのため右下腹部を評価するときに、

「小腸だけ」「大腸だけ」

と完全に切り分けて考えるのは難しい部分があります。

また終末回腸には、

パイエル板

が比較的豊富に存在します。

これは集合リンパ小節で、腸管免疫に関係する重要な組織です。

つまり回盲部は、

小腸と大腸の境界であると同時に、消化・免疫・リンパを考えるうえでも興味深い場所

なのです。


【小腸は「前」だけではなく“後ろ”を見る】

ここまでの解剖を整理すると、小腸への見方が少し変わってくると思います。

小腸は腹部前面から触れることのできる内臓ですが、

解剖学的には、

腸間膜を介して後腹壁につながっています。

そのためセラピストなら、

「小腸が硬い」

だけで終わらず、

どこへつながっているのか?

を考えてみてください。

腸間膜。

十二指腸空腸曲。

回盲部。

後腹壁。

大腰筋周辺。

血管。

リンパ。

神経。

こうした構造を立体的にイメージすると、

小腸を単独の臓器として見る視点から、

腹腔内のネットワークとして見る視点

へ変わっていきます。


【小腸リリース前に評価したいポイント】

小腸へアプローチするとき、

いきなり「硬い場所を押す」のではなく、まず全体像を見ます。

例えば、

①腹部全体の緊張・圧痛はどうか

②呼吸に伴う腹壁・腹腔の動きはどうか

③空腸・回腸領域の左右差はあるか

④腸間膜方向への組織の可動性はどうか

⑤回盲部や十二指腸空腸曲周辺との関係はどうか

⑥骨盤・横隔膜・後腹壁との関係はどうか

といった視点です。

重要なのは、

「小腸をリリースすること」を目的にしないこと。

まず解剖学から、

「なぜ、この領域に緊張や可動性低下がみられるのか?」

を考えることが重要です。


【小腸リリースで注意したいこと】

腹部への施術では、安全面も非常に重要です。

特に、

原因不明の強い腹痛、急激な腹痛、発熱、嘔吐、腹膜刺激を疑う所見、消化管出血が疑われる場合など

では、安易に腹部へ徒手的な刺激を加えるべきではありません。

また、腹部手術後や炎症性疾患などでは、病態や時期によって対応が異なります。

セラピストは、

「触れる技術」と同時に「触れてはいけない状態を見極める知識」

も持っておく必要があります。


【まとめ|小腸は“腸管だけ”を見ない】

今回は、

小腸リリースの前に知っておきたい解剖学

について解説しました。

重要なのは、

・小腸は十二指腸・空腸・回腸に分かれる
・空腸と回腸は腸間膜によって後腹壁とつながる
・腸間膜根は左上から右下へ斜めに走る
・上腸間膜動脈が小腸の重要な血流源となる
・小腸は脂質吸収とリンパ循環にも重要
・腸管神経系が小腸運動を調節している
・終末回腸は回盲部で大腸へつながる

ということです。

小腸リリースというと、

「お腹を柔らかくするテクニック」

として捉えられがちです。

しかし解剖学を知ると、

小腸は単独で存在しているわけではありません。

小腸

腸間膜

血管・リンパ・神経

後腹壁

というつながりがあります。

さらに、

十二指腸、回盲部、大腸、横隔膜、骨盤など周囲の構造とも位置的・機能的に関係しています。

だからこそ、

「小腸のどこを押すか」ではなく、「小腸が何とつながっているのか」を見る。

この解剖学的な視点を持つことで、小腸への評価やアプローチの考え方は大きく変わってくると思います。

ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

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