その他

感情リリースとは何か?|オステオパシー・ホルモン・HPA軸・五行から考える「感情と身体」のつながり

こんにちは。

ALLアプローチ協会の山口です。

今回は、感情リリースを

【ストレス反応】
【HPA軸とホルモン】
【視床下部・扁桃体・海馬】
【ソマトエモーショナルリリース】
【呼吸・横隔膜・ファシア】
【迷走神経と内受容感覚】
【東洋医学・五行】

という具体的な視点から解説します。

【感情リリースとは何か?】

「感情リリース」は、医学的に一つの機序が確立された診断名ではありません。

施術の現場では、

・突然涙が出る
・笑いが起こる
・身体が震える
・大きな呼気が出る
・過去の場面を思い出す
・胸や腹部の圧迫感が変わる
・身体の力が抜ける
・安心感や眠気が生じる

といった現象をまとめて表現する場合があります。

しかし、

涙が出た=感情が解放された

とは限りません。

痛み、不安、安心、疲労、呼吸の変化、施術者との会話など、複数の要因が関与する可能性があります。

セラピストが行うべきなのは、反応へすぐ意味をつけることではなく、

「何に触れたとき、呼吸・表情・筋緊張・本人の感覚がどう変化したか」

を観察することです。

【ストレスで最初に起こる身体反応】

ストレス反応には、大きく分けて二つの経路があります。

① 交感神経・副腎髄質系

危険や負荷を認識すると、交感神経系が活性化し、副腎髄質などからアドレナリンやノルアドレナリンが放出されます。

その結果、

・心拍数の増加
・血圧の上昇
・気管支の拡張
・骨格筋への血流増加
・消化活動の変化
・血糖を利用しやすくする反応

などが起こります。

これは「戦う・逃げる」ために、短時間で身体を動ける状態へ切り替える仕組みです。

② HPA軸

交感神経系よりやや遅れて働くのが、

HPA軸(視床下部―下垂体―副腎皮質系)

です。

ストレス反応が起こると、

視床下部
↓ CRH
下垂体前葉
↓ ACTH
副腎皮質
↓ コルチゾール

という順番で情報が伝わります。

コルチゾールは、エネルギー利用、循環、免疫反応などを調節し、身体がストレスへ対応するのを支えます。

短時間のストレス反応は異常ではありません。

問題になるのは、ストレスへの反応が長期化し、睡眠、痛み、生活環境、心理状態などの影響で調節が乱れている場合です。

なお、慢性ストレスでは、コルチゾールが常に高値になるとは限りません。

高値、低値、日内リズムの変化など、状態によって反応は異なります。

【視床下部は何を調節しているのか?】

視床下部は小さな領域ですが、身体の恒常性を保つために重要な働きをしています。

主な調節対象は、

・体温
・食欲
・水分バランス
・睡眠と覚醒
・自律神経
・内分泌反応
・ストレス反応
・生殖機能

などです。

視床下部には、身体内部の状態や脳の各領域から情報が集まります。

例えば、

【扁桃体】
脅威や感情的な意味づけに関わる

【海馬】
出来事の状況や記憶に関わる

【前頭前野】
状況判断や行動の調整に関わる

【脳幹】
呼吸・循環・自律神経反応に関わる

【身体内部からの求心性情報】
痛み、心拍、内臓の状態などを伝える

これらの情報をもとに、視床下部は自律神経系と内分泌系へ指令を出します。

したがって、視床下部は「感情を保存する場所」というより、

感情、記憶、身体状態を受け取り、全身の反応へ変換する調整領域

と考えると理解しやすくなります。

【HPA軸とコルチゾールの流れ】

HPA軸の流れを詳しく見てみましょう。

① 視床下部からCRHが分泌される

ストレス情報を受け取った視床下部の室傍核などから、

CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)

が分泌されます。

② 下垂体前葉からACTHが分泌される

CRHは下垂体門脈を介して下垂体前葉へ届き、

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)

の分泌を促します。

③ 副腎皮質からコルチゾールが分泌される

ACTHは血流によって副腎皮質へ届き、コルチゾールの合成・分泌を促します。

④ 負のフィードバックが働く

増加したコルチゾールは視床下部と下垂体へ作用し、CRHとACTHの分泌を抑えます。

これが、

負のフィードバック

です。

アクセルを踏み続けないように、上流へブレーキをかける仕組みです。

【副腎から分泌されるホルモン】

副腎は「コルチゾールだけを出す臓器」ではありません。

副腎は、

【副腎皮質】
【副腎髄質】

に分かれ、それぞれ異なるホルモンを分泌します。

副腎皮質

コルチゾール

糖質コルチコイドの一つです。

・血糖の維持
・エネルギー利用の調節
・炎症反応の調節
・循環維持
・ストレスへの適応

などに関わります。

アルドステロン

鉱質コルチコイドの一つです。

・腎臓でのナトリウム再吸収
・カリウム排泄
・水分量
・血圧

の調節に関わります。

アルドステロンは主にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系や血中カリウムによって調節され、HPA軸だけで決まるわけではありません。

副腎アンドロゲン

DHEAなどが含まれます。

性ホルモンの前駆体として働きます。

副腎髄質

アドレナリン・ノルアドレナリン

交感神経系と連携し、急性ストレス時の循環、代謝、覚醒などへ関わります。

副腎は指令を出す「司令塔」ではなく、

上位中枢や循環系から指令を受け、ホルモンを分泌する実行器官

と捉えると理解しやすくなります。

【ストレスと記憶の関係】

ストレス反応には、現在の出来事だけでなく、過去の経験も影響します。

例えば同じ場所、音、におい、姿勢、接触でも、過去の経験によって反応は異なります。

関係する主な領域は、

【扁桃体】
刺激が自分にとって危険か、安全かという評価に関わる

【海馬】
いつ・どこで起こった出来事かという文脈に関わる

【前頭前野】
その反応を抑制・再評価し、行動を選択する

【視床下部】
自律神経とホルモン反応へ変換する

です。

そのため施術中に過去の記憶が想起された場合も、

「組織が記憶していた」

とすぐに断定するより、

触覚、体位、呼吸、痛み、安心感などが、記憶に関連する神経ネットワークを刺激した可能性

として考える方が適切です。

【ソマトエモーショナルリリース(SER)とは?】

ソマトエモーショナルリリースは、主に頭蓋仙骨療法などのボディワーク領域で使われる概念です。

英語では、

SomatoEmotional Release

と表記されます。

Somatoは身体、Emotionalは感情を意味します。

この考え方では、身体へ残った緊張や防御反応と、過去の感情的な体験が関連し、施術中に身体反応と感情反応が同時に変化する現象をSERと呼びます。

ただし、ここには重要な注意点があります。

感情そのものがファシアや臓器へ物質として保存されていることが、現代医学で証明されているわけではありません。

SERは医学的診断名ではなく、オステオパシーや頭蓋仙骨療法、ボディワークで用いられる臨床概念です。

したがって、プロのセラピストは、

「胸骨に悲しみが保存されていた」

ではなく、

「胸骨周囲への接触時に呼吸停止、胸郭固定、涙、記憶の想起が同時に起きた」

と、観察できた現象を分けて記録する必要があります。

【SERが起こりやすいと説明される部位】

頭蓋仙骨療法やボディワークの臨床では、次の部位で感情反応がみられると説明されることがあります。

① 胸骨周囲
② 前頸部・鎖骨周囲
③ 肋骨・胸椎
④ 腹部・内臓周囲
⑤ 頭蓋・顎・頭頸移行部

ただし、これらは「感情が保存されやすい部位」と証明されたものではありません。

呼吸、防御反応、身体イメージ、触覚への敏感さなどが表れやすい部位として、臨床的に観察されるという位置づけです。

胸骨周囲で見るポイント

・接触時に呼吸が止まらないか
・胸郭が急に固まらないか
・肩が挙上しないか
・顎を食いしばらないか
・不快感や恐怖感がないか

前頸部・鎖骨周囲で見るポイント

・舌骨周囲の緊張
・咽頭部の詰まり感
・斜角筋や胸鎖乳突筋の過活動
・吸気時に頸部だけで呼吸していないか
・触れられることへの警戒反応

肋骨・胸椎で見るポイント

・吸気と呼気での左右差
・胸椎伸展時の防御
・肋骨の可動性
・呼吸補助筋の過緊張
・特定方向への運動回避

腹部・内臓周囲で見るポイント

・腹壁の防御性収縮
・圧痛
・呼吸による腹部運動
・吐き気や不安感
・触診への同意と安心感

頭蓋・顎周囲で見るポイント

・食いしばり
・眼球運動
・呼吸停止
・表情の変化
・頭部へ触れた際の緊張

【内受容感覚と感情】

感情と身体を結びつけて考えるうえで重要なのが、

内受容感覚(interoception)

です。

内受容感覚とは、

・心拍
・息苦しさ
・空腹
・吐き気
・腹部膨満
・体温
・筋緊張
・痛み

など、身体内部の状態を感じ取る仕組みです。

身体内部からの情報は、脳幹、視床、島皮質などで処理され、感情や自己感覚にも関係します。

そのため、

「胸が締めつけられるから不安になる」

という方向と、

「不安だから胸が締めつけられる」

という方向の両方が考えられます。

身体と感情は、一方向ではなく相互に影響しています。

【呼吸と横隔膜を見る理由】

ストレス反応で最も観察しやすい変化が呼吸です。

緊張すると、

・呼吸数が増える
・呼気が短くなる
・息を止める
・肩を挙げて吸う
・腹部が動かなくなる
・胸郭の一部だけが動く

といった変化がみられます。

横隔膜は、胸骨、下位肋骨、腰椎などへ付着しています。

したがって呼吸パターンが変わると、

・胸郭可動性
・腹腔内圧
・頸部筋の活動
・体幹安定性
・内臓の呼吸性移動

にも影響します。

「横隔膜に感情が溜まる」と説明するのではなく、

感情やストレスに伴う呼吸戦略が、横隔膜と胸郭の運動へ現れる

と考える方が臨床的です。

【ストレスと血糖値】

ストレス時には、コルチゾールやカテコールアミンの作用によって、身体がエネルギーを利用しやすい状態になります。

肝臓での糖産生などが促され、血糖を保つ方向へ働きます。

そのため慢性的なストレス、睡眠不足、食事パターンの乱れが重なると、食欲や甘い物への欲求が変化することがあります。

ただし、

「ストレスを感じると脳が砂糖を要求する」

と一つの機序だけで説明するのは不十分です。

甘味への欲求には、

・習慣
・睡眠不足
・報酬系
・食事間隔
・心理状態
・血糖変動
・周囲の環境

などが複合的に関係します。

【いわゆる「副腎疲労」について】

強い疲労、朝起きられない、集中力低下、睡眠障害などを、

「副腎疲労」

と表現することがあります。

しかし、副腎疲労は医学的に確立された診断名ではありません。

これらの症状には、

・貧血
・甲状腺疾患
・睡眠時無呼吸
・うつ病や不安症
・感染症
・栄養不足
・薬剤の影響
・副腎不全

など、別の原因が隠れている可能性があります。

特に副腎不全は、検査と治療が必要な疾患です。

「副腎疲労」と自己判断してサプリメントやホルモンを使用するのではなく、持続する強い疲労、体重減少、低血圧、吐き気、色素沈着などがある場合は医療機関での評価が必要です。

また、ビタミンCを短時間に大量摂取する方法を、セラピストが一律に指導することも推奨できません。

腎機能、薬剤、結石歴などによってリスクが異なるため、栄養介入は安全性と個別性を考える必要があります。

【エンドルフィンとストレス】

エンドルフィンは、体内で作られるオピオイドペプチドです。

痛み、運動、ストレス、報酬などに関連して分泌され、痛みの調節や快・不快の体験に関わります。

ただし、

「施術でエンドルフィンを出せば感情が解放される」

と単純には言えません。

運動後に気分が変化する現象も、エンドルフィンだけではなく、エンドカンナビノイド、体温、達成感、注意の変化など複数の機序が関係します。

臨床では、

・施術後に痛みがどう変わったか
・安心感が増えたか
・呼吸が変化したか
・本人がどう感じたか

を評価することが重要です。

【セロトニンとストレス】

セロトニンは、消化管、血小板、中枢神経系などに存在します。

ただし、腸で作られたセロトニンがそのまま脳へ入り、脳内セロトニンになるわけではありません。

セロトニン自体は血液脳関門をほとんど通過できず、脳内セロトニンは脳内で合成されます。

材料となるトリプトファンの利用には、

・食事内容
・他のアミノ酸との競合
・酵素反応
・ビタミンB6などの栄養状態

が関係します。

またセロトニンは、メラトニン合成の前駆体です。

しかし睡眠は、

・光
・起床時間
・運動
・カフェイン
・室温
・精神状態
・睡眠習慣

など多くの要因で変化します。

「セロトニンを増やせば自律神経が整う」と一つの物質だけで説明しないことが大切です。

【迷走神経と脳腸相関】

迷走神経は、脳幹と胸腹部の臓器を結ぶ重要な神経です。

求心性線維によって、内臓の状態を脳へ伝える役割もあります。

そのため脳と腸の関係は、

脳から腸へ
腸から脳へ

という双方向で考える必要があります。

ただし、

「頸部を緩めれば迷走神経が改善する」

「胸骨を動かせば自律神経が正常化する」

と断定することはできません。

施術では、

・呼吸数
・心拍
・腹部症状
・表情
・痛み
・本人の主観

を前後で確認し、実際に何が変化したかを評価します。

【五行・五志から見る感情】

東洋医学では、五臓と感情を次のように関連づけます。

【肝】怒
【心】喜
【脾】思
【肺】悲・憂
【腎】恐

この対応は、現代解剖学における特定臓器へ感情が保存されるという意味ではありません。

例えば「悲と肺」という関係を見る場合も、

悲しみが肺に溜まっている

と判断するのではなく、

・呼吸は浅くないか
・胸郭は屈曲していないか
・声量が低下していないか
・胸部に圧迫感がないか
・本人はどのように身体を感じているか

という評価の入り口として使います。

五行は「答え」ではなく、

身体評価を広げるための仮説

として使うと実践的です。

【感情反応が出たときの対応】

施術中に涙、震え、過去の記憶などが現れた場合は、次の順番で対応します。

① 手を止める、または刺激を弱める

反応が出たからといって、同じ刺激を続ける必要はありません。

② 現在の安全を確認する

「このまま触れていて大丈夫ですか?」

「一度手を離しましょうか?」

と確認します。

③ 呼吸を強制しない

過呼吸や不安がある場合、「深呼吸してください」と繰り返すことで苦しくなる人もいます。

自然に呼吸できる姿勢を作ります。

④ 感情の意味を決めつけない

「これは幼少期のトラウマです」

「肝臓の怒りが出ています」

などとは伝えません。

⑤ 話したくないことを聞き出さない

本人が話す範囲を尊重します。

⑥ 必要に応じて専門家へつなぐ

強い解離、パニック、PTSD、抑うつ、自傷念慮などが疑われる場合は、心理職・精神科・心療内科との連携が必要です。

【施術前に評価したいポイント】

呼吸

✔ 呼吸数
✔ 吸気と呼気の比率
✔ 息を止める癖
✔ 胸郭と腹部の動き
✔ 左右差

胸郭・横隔膜

✔ 胸骨の動き
✔ 下位肋骨の拡張
✔ 胸椎伸展・回旋
✔ 呼吸補助筋の活動

顎・舌骨・頸部

✔ 食いしばり
✔ 舌骨周囲の緊張
✔ 前頸部への接触反応
✔ 胸鎖乳突筋・斜角筋の過活動

腹部・内臓周囲

✔ 腹壁の防御性収縮
✔ 圧痛
✔ 呼吸性移動
✔ 吐き気・不快感

自律神経反応

✔ 発汗
✔ 顔色
✔ 心拍
✔ 手足の冷感
✔ 表情
✔ 声の変化

本人の体験

✔ どこに何を感じるか
✔ その刺激は安心か不快か
✔ 施術を続けたいか
✔ 施術前後で何が変化したか

【ストレスに対する施術の組み立て】

施術部位を先に決めるのではなく、

評価→仮説→介入→再評価

の順番で行います。

評価対象としては、

① 胸郭・胸骨
② 横隔膜
③ 頸部・舌骨・顎
④ 胸椎・肋骨
⑤ 腹部・腸間膜周囲
⑥ 頭蓋・頭頸移行部
⑦ 骨盤・仙骨
⑧ 呼吸パターン
⑨ 全身の防御性緊張

などが考えられます。

ただし、

「蝶形骨を調整すると下垂体が正常化する」

「副腎を触るとコルチゾールが整う」

「内臓を施術すると感情が解放される」

といった因果関係を断定することはできません。

目的はホルモンを直接操作することではなく、

痛み・呼吸・運動・安心感など、評価できる機能へアプローチすること

です。

【最後に】

感情リリースを理解するには、感情だけを見ても不十分です。

ストレスが加わると、

交感神経・副腎髄質系が反応する。

HPA軸が働く。

CRH、ACTH、コルチゾールが変化する。

呼吸、心拍、血糖、筋緊張、内臓感覚も変化する。

さらに、過去の記憶や現在の環境によって、その反応の仕方も変わります。

ソマトエモーショナルリリースは、こうした身体反応と感情反応が施術中に同時に変化する現象を理解するための、ボディワーク上の一つの概念です。

ただし、

感情が組織に保存されていると断定しないこと。

反応を無理に引き出さないこと。

本人の安全と同意を最優先すること。

この3点は必ず守る必要があります。

感情リリースとは、泣かせるテクニックではありません。

セラピストが見るべきなのは、

どの刺激に対して、神経・呼吸・筋緊張・身体感覚がどう反応しているか

です。

見えない感情を決めつけるのではなく、観察できる身体反応を丁寧に評価する。

それが、感情と身体を扱うプロのセラピストに必要な視点です。

ALLアプローチ協会
代表 山口拓也

胸椎アプローチが変わる|施術前に知っておきたい胸椎の解剖学前のページ



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