皆さん、こんにちは。
ALLアプローチ協会 代表の山口拓也です。
今回は、「舌骨で頚部リリース」について、セラピスト向けに臨床目線で解説していきます。
【舌骨とはどんな骨?】

頚部の前面を触診すると、喉仏の少し上に左右へ動く小さな骨があります。それが舌骨です。
舌骨の最大の特徴は、他の骨と関節を持たない唯一の骨であることです。
一般的な骨は隣接する骨と関節を形成し、靭帯によって支持されています。
しかし、舌骨はどの骨とも直接連結しておらず、筋肉や靭帯によって頚部に「浮かぶ」ように支えられています。
この構造により、舌骨は上下・前後・左右へと自由に動くことができ、嚥下や発声、呼吸などの動きに合わせて常に位置を変えています。
解剖学的には第3頚椎(C3)付近の高さに位置し、
- 舌の土台
- 喉頭の支持
- 咽頭の運動
- 下顎の運動
と密接に関係しています。
つまり、舌骨は単なる「喉の骨」ではなく、頭部と頚部をつなぐ機能的な中継点と考えることができます。

【オステオパシーからみた舌骨】
オステオパシーでは、舌骨を単独の骨として捉えることはほとんどありません。
舌骨は、
- 頭蓋
- 下顎骨
- 頚椎
- 咽頭
- 喉頭
- 気管
- 食道
を結ぶ中心に位置しています。
そのため、舌骨の可動性が低下すると、頚部の緊張だけでなく、
顎関節の運動や嚥下機能、さらには呼吸パターンにも影響を及ぼす可能性があります。
オステオパシーで舌骨を評価する理由は、
この**局所の可動性ではなく、「全身との連結性」にあります。
② 舌骨には何本の筋肉が付着する?
舌骨が重要視される最大の理由は、その特殊な構造だけではありません。
数多くの筋肉が舌骨を起点・停止としていることにあります。
一般的には、舌骨には10対(20本)の筋肉が付着するとされ、文献によっては咽頭筋や舌筋も含めてさらに多く数えられることもあります。
つまり舌骨は、一つの筋肉だけで動く骨ではなく、多方向から張力を受ける「力の交差点」といえる存在です。
◆舌骨上筋群

舌骨の上方には4つの筋群が付着しています。
- 顎二腹筋
- 茎突舌骨筋
- 顎舌骨筋
- オトガイ舌骨筋
これらは舌骨を引き上げるだけでなく、下顎の運動や嚥下、開口動作にも深く関与します。
例えば、口を開ける際には下顎を引き下げる筋として働き、嚥下時には舌骨を前上方へ引き上げることで喉頭を保護する重要な役割を果たしています。
◆舌骨下筋群

一方、舌骨の下方には4つの筋群があります。
- 胸骨舌骨筋
- 肩甲舌骨筋
- 胸骨甲状筋
- 甲状舌骨筋
これらは舌骨を安定させ、嚥下後には元の位置へ戻す役割を担います。
また、胸骨や肩甲骨、甲状軟骨と連結しているため、頚部だけでなく胸郭や肩甲帯の張力とも密接に関係しています。
【全身のつながり】
側頭骨
│
茎突舌骨靭帯・茎突舌骨筋
│
下顎骨
│
舌骨上筋群
│
──────────────────────────
【舌 骨】
──────────────────────────
│
舌骨下筋群
│
深頚筋膜
│
咽頭 ─ 喉頭 ─ 気管 ─ 食道
│
内臓筋膜
│
縦 隔
│
心 膜
│
横隔膜中心腱
│
腹 腔
① 頭蓋とのつながり
舌骨は下顎骨と舌骨上筋群で連結し、さらに茎突舌骨筋や茎突舌骨靭帯を介して側頭骨とも関係しています。
そのため、
- 顎関節の機能障害
- 側頭骨の可動性低下
- 咀嚼筋の緊張
などが存在すると、その張力は舌骨にも伝わります。
逆に、舌骨の可動性が改善することで、下顎や顎関節の運動が変化するケースも少なくありません。
つまり舌骨は、頭蓋と頚部を力学的につなぐ中継点として働いています。
② 頚部とのつながり
舌骨には舌骨上筋群・舌骨下筋群が付着し、頚部前面の筋緊張を調整していますまた、深頚筋膜や内臓筋膜とも連続しているため、舌骨の位置が変化すると頚部前面の張力バランスも変化します。
③ 呼吸とのつながり
舌骨は嚥下だけでなく、呼吸にも関与しています。
舌骨の動きが制限されると、
- 舌骨上筋群
- 咽頭
- 喉頭
の可動性が低下し、呼吸時の頚部の過緊張につながることがあります。
また、舌骨下筋群は胸骨や肩甲骨とも連結しているため、胸郭や呼吸補助筋の働きにも影響を与える可能性があります。
④ 内臓とのつながり
オステオパシーでは、舌骨を頭蓋だけでなく内臓との接点としても捉えます。
舌骨の後方には、
- 咽頭
- 喉頭
- 気管
- 食道
が位置し、それらは深頚筋膜や内臓筋膜を介して縦隔へ連続しています。
さらに縦隔は心膜や横隔膜へとつながっており、呼吸運動や内臓の可動性とも密接に関係しています。
そのため、頚部の緊張を評価しているつもりでも、その背景には胸郭や横隔膜、さらには内臓の可動性が関与していることもあります。

【舌骨リリースについて】
① 舌骨の触診
患者にリラックスしてもらい、喉仏の少し上で舌骨を軽く触知します。
強く押し込むのではなく、舌骨全体を包み込むように軽く触れることがポイントです。
② 可動性を評価する
舌骨は正常であれば、軽い誘導に対して滑らかに動きます。
次の方向へ、ごく小さな力で可動性を確認します。
- 上方・下方
- 左方・右方
- 前後方向
- 軽い回旋
左右差や、特定の方向で動きにくさがないかを評価します。
③ 張力(テンション)を感じる
オステオパシーでは可動域だけではなく、「組織の質」にも注目します。
例えば、
- ある方向だけ弾力が乏しい
- 一方向へ引かれるような張力がある
- 終末感が硬い
- 呼吸に合わせた微細な動きが少ない
④ リリースの考え方
評価で可動性の制限が認められた場合は、その制限方向を無理に押し切るのではなく、
組織の反応を感じながらごく軽い力で可動性の回復を促します。
オステオパシーでは、強い圧や急激な矯正ではなく、組織が自然に緩む方向を探しながら、
張力のバランスが整うのを待つようなアプローチを重視します。
⑤リリース後に考えること
舌骨の可動性が改善すると、頚部の緊張が軽減することがあります。
しかし、そこで施術を終えることはありません。
なぜなら、舌骨の可動性が低下した原因が、舌骨そのものにあるとは限らないからです。
例えば、
- 顎関節の可動性低下
- 側頭骨の制限
- 頚椎の機能障害
- 胸郭の硬さ
- 横隔膜の緊張
- 縦隔や内臓周囲の可動性低下
これらが舌骨周囲の張力に影響している可能性があります。
舌骨を「原因」と決めつけるのではなく、身体全体のどこに緊張の起点があるのかを評価します。
以上が舌骨リリースについての記事です。
ぜひ臨床の参考にしていただけると幸いです。
ALLアプローチ協会 代表 山口拓也

























