こんにちは。
ALLアプローチ協会の山口です。
「腸腰筋」
です。
腸腰筋というと、
「股関節を曲げる筋肉」
「硬くなると骨盤が前傾する」
「反り腰や腰痛に関係する」
といったイメージを持っている方も多いと思います。
もちろん股関節屈曲は重要な作用です。
しかし解剖学的に見ると、腸腰筋は単純な「股関節屈筋」ではありません。
特に大腰筋は、
腰椎
↓
骨盤周囲
↓
股関節
↓
大腿骨
を縦方向につなぎます。
さらに周囲には、
横隔膜
腰方形筋
腎臓
腰神経叢
大腿神経
外腸骨動静脈
など重要な構造が存在します。
今回は触診やアプローチ方法ではなく、
「腸腰筋の周囲には何があるのか?」
を中心に、解剖学から深掘りしていきます。
【1|そもそも「腸腰筋」は1つの筋肉ではない】
まず基本からです。
腸腰筋は一般的に、
大腰筋(Psoas major)
+
腸骨筋(Iliacus)
をまとめた名称です。
両者は起始部が異なりますが、骨盤内で合流しながら下降し、最終的に大腿骨の、
小転子
へ付着します。
つまり、
大腰筋
→腰椎から始まる
腸骨筋
→腸骨から始まる
という大きな違いがあります。
同じ腸腰筋として扱われますが、解剖学的にはスタート地点がまったく異なる筋肉です。
【2|大腰筋は腰椎から始まる】
大腰筋の起始は特徴的です。
主に、
T12〜L5付近の椎体・椎間円板
および
腰椎横突起
などから起こります。
つまり大腰筋は、
腰椎そのものと非常に深い位置でつながっている筋
です。
腰椎から始まった筋線維は下方へ走り、骨盤の前方を通過して大腿骨へ向かいます。
そのため大腰筋は、
腰椎と股関節を直接つなぐ
という特徴を持っています。
これは腸骨筋との大きな違いです。
【3|大腰筋の起始は「浅層」と「深層」で見ると面白い】
大腰筋の腰椎付着部をさらに細かく見ると、非常に特徴的です。
大腰筋には、
椎体・椎間円板側から起こる線維
と
横突起側から起こる線維
があります。
そして、この線維間には腰神経叢の枝が存在します。
つまり大腰筋は単純に腰椎の前面に貼り付いている筋肉ではなく、
筋内部・周囲を神経が走行する複雑な解剖学的領域
になっています。
この位置関係は後ほど詳しく説明します。
【4|腸骨筋は「腸骨窩」から始まる】
一方の、
腸骨筋
は大腰筋とは起始が異なります。
主な起始は、
腸骨窩
です。
腸骨の内面に広がる大きなくぼみから筋線維が起こり、下方へ向かいます。
その後、大腰筋と合流して、
鼠径靱帯の深部
を通過します。
そして最終的に大腰筋とともに、
大腿骨小転子周辺
へ付着します。
したがって腸骨筋は、
骨盤と大腿骨
をつなぐ筋として考えることができます。
【5|大腰筋と腸骨筋は「小転子」へ向かう】
大腰筋と腸骨筋は骨盤内で合流し、
腸腰筋
として大腿骨へ向かいます。
停止部は、
大腿骨小転子
です。
小転子は大腿骨近位部の後内側に位置します。
ここが重要です。
腸腰筋は身体の真正面から大腿骨に付着しているわけではありません。
骨盤前方から股関節の前方を通過し、
大腿骨の内側〜後内側に位置する小転子
へ向かいます。
この立体的な走行を理解すると、腸腰筋の作用が単純な股関節屈曲だけではないことが分かります。
【6|腸腰筋は股関節の前を通る】
腸腰筋は、
股関節の前方
を通過します。
そのため腸腰筋が収縮すると、代表的には、
股関節屈曲
が起こります。
例えば、
歩行で脚を前へ運ぶ。
階段を上る。
椅子から脚を持ち上げる。
仰向けから脚を上げる。
といった動作に関係します。
ただし、作用は固定される側によって変化します。
大腿骨側が固定されれば、大腰筋は腰椎・体幹側へ作用します。
つまり腸腰筋を理解するときには、
「大腿骨が動くのか」
それとも
「体幹側が動くのか」
を分けて考える必要があります。
【7|大腰筋と腰椎の関係】
大腰筋が他の股関節屈筋と大きく異なるのは、
腰椎へ直接付着していること
です。
例えば大腿直筋も股関節屈曲に関与しますが、大腿直筋は腰椎には付着しません。
大腰筋は複数の腰椎に付着しているため、股関節だけでなく、
腰椎の運動や安定性
にも関係します。
大腰筋の両側が作用する場合と片側が作用する場合でも、腰椎への力学的作用は変わります。
そのため、
大腰筋=股関節屈筋
だけでは、この筋肉の特徴を十分に説明できません。
【8|「大腰筋が硬い=骨盤前傾」と単純化しない】
腸腰筋について、
「腸腰筋が短縮すると骨盤が前傾する」
と説明されることがあります。
確かに大腰筋は腰椎と大腿骨をつなぎ、腸骨筋は骨盤と大腿骨をつなぐため、骨盤・腰椎の位置関係に影響を与える可能性があります。
しかし、
骨盤前傾=腸腰筋の短縮
と一対一で考えることはできません。
骨盤の位置には、
脊柱。
股関節。
腹筋群。
脊柱起立筋群。
ハムストリングス。
大殿筋。
姿勢。
荷重条件。
など多くの要素が関係します。
解剖学的な位置関係と、実際の姿勢の原因は分けて考える必要があります。
【9|大腰筋の後方には「腰方形筋」がある】
大腰筋周囲を深掘りすると、重要なのが、
腰方形筋
です。
腰方形筋は後腹壁を構成する筋の一つで、
腸骨稜
腸腰靱帯
などから、
第12肋骨
腰椎横突起
へ向かいます。
大腰筋と腰方形筋は、どちらも腰椎周辺の深部に位置します。
しかし走行は異なります。
大腰筋は、
腰椎 → 大腿骨
へ向かうのに対して、
腰方形筋は、
骨盤 → 腰椎・第12肋骨
へ向かいます。
つまり腰椎周囲では、異なる方向へ走る深層筋が隣接しています。
【10|大腰筋の上には「横隔膜」がある】
大腰筋を深掘りするなら、
横隔膜
との位置関係は外せません。
横隔膜は胸腔と腹腔の境界を形成する主要な呼吸筋です。
横隔膜には、
胸骨部
肋骨部
腰椎部
があります。
このうち重要なのが、
腰椎部
です。
横隔膜は左右の脚(crura)を介して腰椎へ付着します。
さらに横隔膜には、
内側弓状靱帯
があります。
この内側弓状靱帯は、
大腰筋上部をまたぐような位置関係
にあります。
つまり大腰筋の上端付近と横隔膜は、解剖学的に非常に近い位置に存在しています。
【11|大腰筋と横隔膜は「筋膜」でも近い】
大腰筋は、
大腰筋筋膜
に覆われています。
一方、後腹壁には、
胸腰筋膜
腸骨筋膜
横隔膜周囲の結合組織
など複数の筋膜・結合組織があります。
これらは完全に独立した袋として存在しているわけではなく、解剖学的に連続・接続する領域があります。
特に、
大腰筋
腰方形筋
横隔膜
は腰椎〜第12肋骨周囲で近接しています。
そのためこの領域を理解するには、筋肉単体ではなく、
後腹壁全体の立体構造
として見ることが重要です。
【12|大腰筋の前方には「腎臓」がある】
大腰筋の前方には重要な臓器があります。
その一つが、
腎臓
です。
腎臓は後腹膜臓器で、脊柱の左右に位置します。
腎臓の後面には、
横隔膜
大腰筋
腰方形筋
腹横筋
などがあります。
つまり腎臓と大腰筋は、後腹壁で前後方向に近接しています。
また腎臓周囲には腎筋膜や脂肪組織などが存在するため、
腎臓が大腰筋へ直接貼り付いている
という意味ではありません。
重要なのは、腹腔深部では筋・臓器・筋膜が非常に近い位置に存在していることです。
【13|大腰筋の内部には「腰神経叢」が形成される】
大腰筋を理解するうえで非常に重要なのが、
腰神経叢
です。
腰神経叢は主に、
L1〜L4の前枝
によって形成されます。
特徴的なのが、その位置です。
腰神経叢は、
大腰筋の内部
に形成されます。
そこから複数の神経が大腰筋の前面・内側・外側へ出ていきます。
つまり大腰筋は、
単なる股関節屈筋ではなく、
重要な末梢神経が通過・分岐する解剖学的ランドマーク
でもあります。
【14|大腰筋周囲から出てくる神経】
腰神経叢からは、
腸骨下腹神経
腸骨鼠径神経
陰部大腿神経
外側大腿皮神経
大腿神経
閉鎖神経
などが分岐します。
それぞれ大腰筋との位置関係が異なります。
例えば、
大腿神経
→大腰筋外側縁から出る
閉鎖神経
→大腰筋内側縁から出る
陰部大腿神経
→大腰筋前面に現れる
という位置関係があります。
大腰筋の周囲には、これだけ多くの神経構造が存在しているわけです。
【15|特に重要なのが「大腿神経」】
臨床解剖で特に重要なのが、
大腿神経
です。
大腿神経は、
L2〜L4
を中心に形成されます。
腰神経叢から出た大腿神経は、
大腰筋外側
↓
大腰筋と腸骨筋の間
↓
鼠径靱帯深部
↓
大腿前面
へ向かいます。
つまり、
大腰筋と腸骨筋の間を神経が走っている
ということです。
大腿神経はその後、大腿四頭筋などへの運動枝や皮膚への感覚枝を分岐します。
腸腰筋周囲を理解するなら、この位置関係は必ず押さえておきたいポイントです。
【16|内側には「閉鎖神経」が走る】
大腰筋の内側から出てくる代表的な神経が、
閉鎖神経
です。
閉鎖神経も主に、
L2〜L4
から形成されます。
大腰筋内側から骨盤内へ進み、
閉鎖管
を通過して大腿内側へ向かいます。
主に、
内転筋群
などを支配します。
大腰筋を中心に見ると、
外側には大腿神経。
内側には閉鎖神経。
前面には陰部大腿神経。
という立体的な神経配置が見えてきます。
【17|腸腰筋は「鼠径靱帯の深部」を通過する】
大腰筋と腸骨筋は骨盤内を下降した後、
鼠径靱帯の深部
を通過して大腿へ向かいます。
鼠径靱帯は、
上前腸骨棘
から
恥骨結節
へ走ります。
この周辺には、
腸腰筋
大腿神経
大腿動脈
大腿静脈
など、重要な構造が集中しています。
ただし位置関係は同じではありません。
大腿神経は腸腰筋側を通り、血管群とは腸恥筋膜弓などによって区画されます。
鼠径部は、
筋・神経・血管が非常に密集する場所
なのです。
【18|大腰筋の内側には大血管も存在する】
腰椎前方には、
腹大動脈
下大静脈
という非常に大きな血管があります。
腹大動脈は腰椎前方を下降し、おおよそL4付近で、
左右の総腸骨動脈
へ分岐します。
総腸骨動脈はさらに、
内腸骨動脈
外腸骨動脈
へ分かれます。
外腸骨動脈は鼠径靱帯を越えると、
大腿動脈
となります。
つまり大腰筋の周囲を立体的に見ると、
筋肉
だけではなく、
神経・血管・臓器
が密集していることが分かります。
【19|小腰筋という筋肉もある】
大腰筋を勉強するとき、一緒に知っておきたいのが、
小腰筋(Psoas minor)
です。
小腰筋は一般的に、
T12〜L1付近
から起こり、骨盤周囲の筋膜・骨性部へ向かいます。
大腰筋と違い、
大腿骨小転子まで走りません。
また小腰筋には個体差があり、存在しない人も少なくありません。
そのため、
大腰筋と小腰筋は別の筋肉
として整理する必要があります。
【20|腸腰筋は歩行でも働いている】
腸腰筋は日常動作でも重要です。
特に、
歩行
です。
歩行では股関節が、
伸展
から
屈曲
へ切り替わる局面があります。
遊脚期には大腿を前方へ運ぶため、腸腰筋を含む股関節屈筋群が関与します。
一方で立脚後期には股関節が伸展するため、腸腰筋は伸張される方向になります。
つまり歩行では、
短くなる
だけでなく、
伸ばされる
という変化も繰り返しています。
腸腰筋は静止した姿勢だけではなく、動作の中で理解することが重要な筋肉です。
【21|腸腰筋を立体的に整理するとこうなる】
最後に、腸腰筋周囲の解剖をまとめます。
中心に、
大腰筋・腸骨筋
があります。
上方には、
横隔膜
後方〜後外側には、
腰方形筋
前方には、
腎臓などの後腹膜臓器
内部・周囲には、
腰神経叢
外側には、
大腿神経
内側には、
閉鎖神経
さらに内側・前方には、
腹大動脈・下大静脈・腸骨血管系
があります。
そして下方では、
鼠径靱帯の深部
↓
股関節前方
↓
大腿骨小転子
へ向かいます。
こうして見ると、腸腰筋は単なる「股関節の筋肉」ではありません。
腰椎・腹腔深部・骨盤・股関節・大腿をつなぐ位置に存在する筋肉
だということが分かります。
【まとめ|大腰筋を「股関節屈筋」だけで覚えるともったいない】
今回は、
腸腰筋
を解剖学から深掘りしました。
腸腰筋は、
大腰筋
+
腸骨筋
から構成され、最終的には大腿骨小転子へ向かいます。
しかし両者のスタート地点は異なります。
大腰筋は、
腰椎 → 小転子
腸骨筋は、
腸骨窩 → 小転子
という走行です。
さらに大腰筋周囲には、
横隔膜
腰方形筋
腎臓
腰神経叢
大腿神経
閉鎖神経
腹大動脈・下大静脈
など重要な構造があります。
特に押さえておきたいのが、
大腰筋内部に腰神経叢が形成される
という解剖学的特徴です。
そこから、
外側へ大腿神経
内側へ閉鎖神経
前面へ陰部大腿神経
などが現れます。
さらに上方では横隔膜の腰椎部と近接し、下方では鼠径靱帯深部を通過して股関節前面へ向かいます。
つまり腸腰筋は、
腰椎と大腿骨をつなぐ筋であり、その周囲に神経・血管・臓器が集まる重要な解剖学的領域
です。
「腸腰筋=股関節屈曲」
だけで終わらせず、
腰椎
↓
横隔膜・後腹壁
↓
腰神経叢
↓
骨盤
↓
鼠径部
↓
股関節
↓
小転子
まで立体的に理解する。
そうすることで、腸腰筋という筋肉をより深く理解できると思います。
ALLアプローチ協会
代表 山口拓也
























